2023年3月2日〜4日に電気通信大学で開催された情報処理学会第85回全国大会において,東田悠希(B4),坂本拓馬(B4),松村 学(B4),佐々倉 瑛一(B4),松下 翔太(B4),XU Yucheng(M1)の6名が以下のタイトルで発表を行いました.
車両走行状態とドライバ視線の時系列変化を考慮した運転支援情報提示の制御手法(東田 悠希)
近年,道路交通の安全性や利便性の向上を目的とした様々な運転支援機能が普及したことにより,ドライバが走行中に取得する情報が増加している.現在の車両の速度やナビゲーション情報など様々な運転支援情報をドライバに提示する方法として,車両のフロントガラスに虚像を投影することで視覚的に情報を伝えるHUD(HeadUpDisplay)がある.HUDは従来のカーナビゲーションのように,HDD(HeadDownDisplay)で表示する場合と比較して脇見運転をせずに情報の取得が可能な点や,HDDよりも早期に情報を取得できる点で優れており,これを用いて運転支援を行うための機能開発が行われている.しかし,ドライバにあらゆる運転支援情報を提示した場合,ドライバの認知や判断を無視した支援はドライバにとって冗長なものとなり,既に認知している歩行者などの警告による煩わしさや過多な情報提示による注意力の低下が原因となって,運転の安全性を損なう可能性がある.したがって,ドライバのディストラクション(意識の脇見)を考慮した機能や運転支援機能の冗長性の排除が必要となる.そのため,ドライバが必要とする適切な情報を適宜提示するような運転支援情報の制御が必要である.運転支援情報の制御方法として,ステアリングのふらつき度合といった車両走行状態からドライバが受ける負担を予測し,提示する情報の制御を行った研究があるが,この手法ではドライバが周囲環境に対して認知をどの程度行えているかは考慮していない.ドライバは主に視覚から情報を取り入れることにより周囲環境を認知するため,周囲の歩行者などへのドライバの注視を示すドライバ視線はドライバの認知状態を推定するための重要な情報である.本研究では,車両走行状態とドライバ視線を用いてドライバの周囲環境に対する認知状態を推定し,推定結果に基づいて提示する運転支援情報を制御する手法を提案する.
ユーザの意思を考慮したホームネットワークにおけるトラフィック優先度制御システム(坂本 拓馬)
近年,IoTデバイスの普及,高画質な動画などの大容量データの増加,テレワークの需要が高まったことによって,ホームネットワークのトラフィック量が増加傾向にあり,通信帯域の逼迫が危惧されている.通信帯域が逼迫した場合,ユーザが必要とするデータを,必要な時に送信できない問題が発生する.また,ホームネットワークには特性の異なるデータが混在し,通信の種類と量が時間帯によって変動する.さらに,ユーザによって必要な通信が変化するため,優先度の設定にユーザの意思が反映される必要がある.ユーザの意思が反映されない場合,ユーザが必要としている通信の優先度が低く設定されるといった問題が発生する.そこで,ホームネットワークの通信に,データ特性に応じて優先度を設定し,通信帯域が逼迫した際に,低優先度のデータを破棄し,高優先度データの帯域を確保することで通信品質を保証する優先度制御が提案されている.しかし,データ特性を考慮して各通信に番号を割り振ることで優先度を設定しており,ユーザは優先度を設定する際に,各通信の番号を変更する必要がある.そのため,ホームネットワーク内の通信の種類が増加するとユーザによる優先度の設定が困難になる.本研究では,ユーザの意思を考慮した優先度制御システムを提案する.優先度設定の初期状態はデータ特性を考慮して定義する.ユーザは優先度の変更を要求し,システムはユーザに優先したいトラフィックの選択を促す.選択されたトラフィックを高優先度に設定することでユーザの負担を減らしつつ,ユーザの意思を反映した優先度制御を行う.
時空間予約マイクロロードプライシングのオークション方式による価格設定手法の提案(松村 学)
近年,工事情報や渋滞情報などの動的情報と高精度3次元位置情報(路面情報,車線情報)等の静的情報を組み合わせたデジタル地図であるダイナミックマップの研究が進められている.この技術を用いることで,協調型自動運転車両が走行予定である経路の時間と空間を事前に予約し,他の車両を排除することで,よりスムーズな走行を可能にする時空間グリッドという考え方が確立された.今後ダイナミックマップの活用や,協調型自動運転車両の普及につれて安全運転支援や渋滞緩和などの役割を果たすと期待されている.また,ロードプライシングという考えのもと,時空間によって分割したグリッドそれぞれに値段を付け,その時空間グリッドを走行するための予約に料金を必要とするマイクロロードプライシングの実現を目指す研究も行われている.このマイクロロードプライシングでは,車両のスムーズな走行が可能となる一方で,事前予約の優先度がない場合や価格設定によっては,車両の予約が集中する問題が生じ,一部車両の旅行時間の増大が問題点となる.そこで本研究では,マイクロロードプライシングでの時空間グリッド予約において,車両が支払う料金に応じて予約の優先度を決定するオークション方式を導入する.これにより,瞬時に時空間グリッド予約が可能となり,関連研究に対して出発地から目的地までの旅行時間の短縮を目的とする.
協調型自動運転に向けた複数路側センサのフリースペース情報統合(佐々倉 瑛一)
車載センサにより周辺を検知して走行する自律型自動運転の実用化が始まっている.自律型自動運転において,特に車両周辺の走行可能領域としてフリースペースの認識技術が注目されている.フリースペースとは車両が走行可能な領域として定義されるもので,車両や歩行者等の物標がないと判断された部分を指す.一方で,車載センサのみでは,見通しの悪い交差点など死角にいる他車両や歩行者が検知できないため,各車両の車載センサや路側センサから得られたセンサ情報を通信技術を用いて共有する,協調型の自動運転が安全性を向上させると考えられている.また,他の車両や路側機が検知した物標が自車両とどう関係するのかを知るには道路地図と照合し,交通ルール上の意味を与える必要があることから,V2V通信によるセンサ情報のみの共有ではなく,センサ情報をサーバの地図上に集約する手法が研究されている.自律型自動運転での利用が検討されているフリースペースであるが,本研究ではこれを協調型で利用することを考える.通信を介する協調型自動運転において物標情報のみを用いた場合,以下のような問題が生じる.実際に物標が存在せず安全に走行できる場合と,実際は物標が存在するが通信時の情報の欠落によって物標情報を車両が受信できなかった場合は,どちらも制御システムが物標情報を受け取らないため,危険な状況と安全な状況の見分けがつかない.物標が存在するにも関わらず,交差点に侵入すると重大な事故を引き起こす可能性がある.これに対し,フリースペース情報を用いると,実際に車両が存在する場合や通信による情報の欠落が発生した場合を含め,フリースペース情報が得られなかった場合は停止するため,安全性を確保できる.よって,通信による情報の信頼性を考慮する必要がある協調型自動運転において,フリースペース情報は有用であると考えられる.そこで本研究では,協調型自動運転において,一般的な物標情報に加えて,フリースペース情報を効率的に統合,管理する方法を提案する.
移動環境におけるビデオストリーミング品質向上のためのMPQUICスケジューラの検討(松下 翔太)
近年,ビデオコンテンツの需要が高まっており,2022年にインターネットトラフィックのうち82%がビデオストリーミング(以下,ストリーミング)のトラフィックとなることが予測されている.ストリーミングにおいて,その品質に着目すると,パケットロスや遅延などによりストリーミングが停滞することのないように通信帯域を確保することが必要となる.そこで,LTEや5Gといったセルラー回線や無線LANなどの複数の通信経路を併用することで通信帯域を確保する技術である,マルチパストランスポートプロトコルが注目されている.しかし,無線LANを利用する場合,ユーザの移動によって無線LANとの距離が遠くなり,通信経路を喪失し,パケットロスが発生することで,ストリーミング品質が低下するという課題がある.そこで本研究では,移動環境下のスマートフォンでストリーミングする状況において,電波強度に応じて通信経路を選択する手法を提案することで,経路喪失によるパケットロスを削減し,ストリーミング品質向上の効果を検討する.