2022年度の卒業論文発表会において,東田 悠希(B4),松村 学(B4),坂本 拓馬(B4),佐々倉 瑛一(B4),谷澤 直大(B4),松下 翔太(B4),山崎 慎也(B4),森田暉之(B4)の8名が以下のタイトルで発表を行いました.
車両走行状態とドライバ視線の時系列変化を考慮した運転支援情報提示の制御手法(東田 悠希)
近年,様々な運転支援機能が普及したことによりドライバが取得できる情報が増加している.走行中の車両情報や周囲環境の認識を支援する様々な運転支援情報をドライバに提示する手法として,車両のフロントガラスに虚像を投影することで,視覚的に伝えるHUD(Head Up Display)がある.HUD は従来の自動車の情報ディスプレイと比較して,脇見運転をせず早期に運転支援情報の取得が可能な点において優れており,これを用いて運転支援を行うための機能開発が行われている.しかし,提示する運転支援情報が過多である場合は,運転支援情報への認識時間が長くなってしまうため,ドライバの周囲環境への注意力の低下が原因となり,運転の安全性を損なう可能性がある.また,ドライバの認識や判断を考慮せず,ドライバが既に認識している周囲環境のものにも運転支援情報を提示した場合,それらは冗長なものとなる.したがって,ドライバが前方を向いているにも関わらず,周囲環境を認識できていないような,ドライバの意識の脇見を考慮した機能や,提示する運転支援情報の冗長性の排除が必要となる.そこで,走行中の車両情報であるステアリングのふらつき度合からドライバ個人の運転負担を予測し,提示する運転支援情報の制御を行う手法があるが,この手法ではドライバの周囲環境に対する認識状態を考慮していない.そのため,ドライバが未だ認識していない周囲環境の運転支援情報を提示せず,すでに認識している運転支援情報を提示する可能性がある.したがって,ドライバの周囲環境に対する認識状態を考慮した運転支援情報の制御が必要である.本研究では,走行中の車両情報とドライバの視線情報を用いてドライバが周囲環境を認識しているか推定し,提示する運転支援情報を制御する手法を提案する.
時空間予約マイクロロードプライシングのオークション方式による価格設定手法の提案(松村 学)
近年,工事情報や渋滞情報などの動的情報と高精度3 次元位置情報(路面情報, 車線情報)等の静的情報を組み合わせたデジタル地図であるダイナミックマップの研究が進められている.この技術を用いることで,協調型自動運転車両が走行予定である経路の時間と空間を事前に予約し,他の車両を排除することで,よりスムーズな走行を可能にする時空間グリッドという考え方が確立された.今後ダイナミックマップの活用や,協調型自動運転車両の普及につれて安全運転支援や渋滞緩和などの役割を果たすと期待されている.また,ロードプライシングという考えのもと,時空間によって分割したグリッドそれぞれに値段を付け,その時空間グリッドを走行するための予約に料金を必要とするマイクロロードプライシングの実現を目指す研究も行われている.このマイクロロードプライシングでは,車両のスムーズな走行が可能となる一方で,事前予約の優先度がない場合や価格設定によっては,車両の予約が集中する問題が生じ,一部車両の旅行時間の増大が問題点となる.そこで本研究では,マイクロロードプライシングでの時空間グリッド予約において,車両が支払う料金に応じて予約の優先度を決定するオークション方式を導入する.これにより関連研究に対して出発地から目的地までの旅行時間の短縮を目的とする.
ユーザの意思を考慮したホームネットワークにおけるトラフィック優先度制御手法(坂本 拓馬)
近年,大容量データの増加により,家庭内に構築したLAN 環境であるホームネットワークとインターネット間の通信帯域の逼迫が危惧されている.また,IoT 機器の普及により,ホームネットワークに接続される機器が増加しており,重要度やQoS 要件などのデータ特性の異なる通信が存在する.そのため,データ特性を考慮せずに通信を制御すると.通信帯域が逼迫した際に,重要な通信のパケットロスやQoS の低下などの問題が生じる恐れがある.この問題を解決するために,重要度やQoS 要件などのデータ特性を考慮して通信を4 つのカテゴリに分類し,状況に応じて動的に優先度を設定する優先度制御手法が提案されている.この手法は,各カテゴリに優先度を設定し,動的な優先度の変更を行っている.しかし,ホームネットワークにおいて多くの通信が存在する環境でデータ特性のみを考慮して優先度の変更を行うと,同じデータ特性の通信が複数存在した場合,ユーザが必要とする通信が低優先度に設定されるなど,ユーザの意思が反映されない可能性がある.ホームネットワークでは,ユーザによって通信の重要度や需要が変化し,ユーザの意思が反映されない場合ユーザが必要とする通信が破棄される恐れがある.本研究では,データ特性の考慮に加え,各トラフィックにユーザの意思に応じた優先度の付与を行うことで,ユーザによる重要度や需要の変化に応じてトラフィックを制御する優先度制御手法を提案する.
協調型自動運転に向けた複数路側センサのフリースペース情報統合(佐々倉 瑛一)
近年自律型自動運転において,車両周辺の走行可能領域としてフリースペースの利用が検討されている.フリースペースとは車両が走行可能な領域として定義されるもので,車両や歩行者等の物標がないと判断された部分を指す.しかし,車載センサのみでは,見通しの悪い交差点など死角にいる他車両や歩行者を検知できないため,各車両の車載センサや路側センサから得られたセンサ情報を通信技術を用いて共有する,協調型の自動運転が安全性を向上させると考えられている.自律型自動運転での利用が検討されているフリースペースであるが,本研究ではこれを協調型で利用することを考える.
道路環境を考慮した優先度によるダイナミックマップシステムの負荷分散方式(谷澤 直大)
近年,注目されている協調型自動運転社会では,自車位置を正確に認識し,交通状況に応じた予測運転を行うための手段として,高精度3 次元地図に交通情報などを付加した概念的なデータの集合体であるダイナミックマップというシステムの研究が行われている.これによって,リアルタイムな道路交通状況を管理し,交通支援サービスを提供するようなプラットフォームをダイナミックマップシステムと呼び,地理的に分散配置したエッジサーバを用いたダイナミックマップシステムの研究が行われている.しかし,エッジサーバは計算資源が限られているため,従来のダイナミックマップシステムでは,渋滞などで多数の車両からのアクセスが集中した際の拡張性について考慮されていない.そこで現在,エッジサーバの拡張性を考慮した処理の負荷分散方式が検討されている.本研究では,エッジサーバを用いたダイナミックマップシステムにおける処理の負荷分散をする際,道路環境を考慮して走行調停の重要度に応じた優先度を付与する.そして,その優先度を基に移譲するエリアを決定し,走行調停の重要度が高いエリアに所属する車両の安全性を保つ新たな負荷分散方式を提案する.
移動環境におけるビデオストリーミング品質向上のためのMPQUIC スケジューラの検討(松下 翔太)
近年,情報通信技術の高度化により,スマートフォンなどのモバイル端末でもビデオストリーミング(以下,ストリーミング)を視聴することが可能になっている.そのため,電車やバスなどの公共交通機関や自家用車に乗って移動しながら,ストリーミングを視聴する機会が増えており,ビデオコンテンツの需要が高まっている.ストリーミングにおいて,その品質に着目すると,パケットロスや遅延などによりストリーミングが停滞することのないように通信帯域を確保することが必要となる.そこで,LTE や5G といったセルラー回線や無線LAN などの複数の通信経路を併用することで通信帯域を確保する技術である,マルチパストランスポートプロトコルが注目されている.しかし,5G や無線LAN を利用する場合,ユーザの移動によって5G や無線LAN との距離が遠くなり,通信経路を喪失し,パケットロスが発生する.到達できなかったパケットは再送されるが,再送による遅延が発生し,ストリーミング品質が低下するという課題がある.そこで本研究では,移動環境下のモバイル端末でストリーミングを行う状況において,受信信号強度に応じて通信経路を選択する手法を提案することで,経路喪失によるパケットロス及び遅延を削減し,ストリーミング品質向上の効果を検討する.
協調型自動運転車両のセンサ検知範囲の重複度に応じた送信間隔割り当て手法(山崎 慎也)
近年,情報通信技術の高度化により,スマートフォンなどのモバイル端末でもビデオストリーミング(以下,ストリーミング)を視聴することが可能になっている.そのため,電車やバスなどの公共交通機関や自家用車に乗って移動しながら,ストリーミングを視聴する機会が増えており,ビデオコンテンツの需要が高まっている.ストリーミングにおいて,その品質に着目すると,パケットロスや遅延などによりストリーミングが停滞することのないように通信帯域を確保することが必要となる.そこで,LTE や5G といったセルラー回線や無線LAN などの複数の通信経路を併用することで通信帯域を確保する技術である,マルチパストランスポートプロトコルが注目されている.しかし,5G や無線LAN を利用する場合,ユーザの移動によって5G や無線LAN との距離が遠くなり,通信経路を喪失し,パケットロスが発生する.到達できなかったパケットは再送されるが,再送による遅延が発生し,ストリーミング品質が低下するという課題がある.そこで本研究では,移動環境下のモバイル端末でストリーミングを行う状況において,受信信号強度に応じて通信経路を選択する手法を提案することで,経路喪失によるパケットロス及び遅延を削減し,ストリーミング品質向上の効果を検討する.
車両の移動経路に基づいた通信エリアの離脱予測によるMPTCP フロー制御の提案(森田 暉之)
近年,コネクテッドカーの普及・開発が進む中で,車両の通信手段にはさまざまな通信要件を満たすことが望ましい.一定の通信要件が満たされない場合,重要な情報や最新の情報を取得できないまま古い情報に基づく走行となり,周辺の交通状況に多大な影響を及ぼす可能性がある.加えて,車両が接続可能な通信手段として,LTE のように幅広く通信を行える広域通信,及び5G や無線LAN のように高速通信を行える狭域通信が整い始めている.このような背景の下,同一の通信相手と複数の通信経路でマルチパス通信を可能とするMPTCP(Multipath TCP)は,車両向けの通信手段を併用できるため注目されている.広域通信と狭域通信を同時に利用することで,通信性能を向上させるため,車両の通信要件を満たした通信を実現できる.しかし,限られた通信エリアの狭域通信を用いる場合,走行する車両の移動により,通信エリアからの離脱が頻発する.そして,車両が通信エリアから離脱するたびに,該当の通信経路が切断されるため送信不可に陥り,通信に支障をきたす恐れがある.したがって,車両が置かれる環境に応じて,適切に通信経路を選択するフロー制御を行い,通信経路の急激な変化に対応できるパケットスケジューリング方法が必要である.