2023年2月10日の第145回月例発表会(B4)において,東田 悠希(B4),佐々倉 瑛一(B4),坂本 拓馬(B4),山崎 慎也(B4),松村 学(B4),松下 翔太(B4),谷澤 直大(B4)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.
車両走行状態とドライバ視線の時系列変化を考慮した運転支援情報提示の制御手法(東田 悠希)
近年,様々な運転支援機能が普及したことによりドライバが取得できる情報が増加している.運転支援機能の中には,ドライバに対して車両のフロントガラスに虚像を投影することで視覚的に様々な支援情報を伝えるHUD(Head Up Display)があり,これを用いて運転支援を行うための機能開発が行われている.しかし,ドライバに対して提示する情報が過多である場合や,ドライバの認知や判断を無視した支援はドライバの運転操作に悪影響を及ぼす可能性がある.従って,ドライバの意識の脇見を考慮した取り組みや冗長性の排除が必要となる.そのためHUDを用いて運転支援を行うには,ドライバが必要とする適切な情報を適宜提示するような運転支援情報の制御が必要である.また,走行中の車両情報であるステアリングのふらつき度合からドライバ個人の運転負担を予測し,提示する情報の制御を行う手法があるが,この手法ではドライバが周囲の環境に対して認知をどの程度行えているかは考慮していない.ドライバは主に視覚から外界の情報を取り入れることにより周囲のものを認知するため,ドライバの視線情報はドライバが何を認知したか推定するための重要な情報である.
本研究では,車両の走行状態とドライバ視線を用いてドライバが周囲の環境を認知しているか推定し,提示する運転支援情報を制御する手法を提案する.
協調型自動運転に向けた複数路側センサのフリースペース情報統合(佐々倉 瑛一)
近年自律型自動運転において,車両周辺の走行可能領域としてフリースペースの認識技術が注目されている.フリースペースとは車両が走行可能な領域として定義されるもので,車両や歩行者等の物標がないと判断された部分を指す.一方で,車載センサのみでは,見通しの悪い交差点など死角にいる他車両や歩行者を検知できないため,各車両の車載センサや路側センサから得られたセンサ情報を通信技術を用いて共有する,協調型の自動運転が安全性を向上させると考えられている.自律型自動運転での利用が検討されているフリースペースであるが,本研究ではこれを協調型で利用することを考える.
ユーザの意思を考慮したホームネットワークにおけるトラフィック優先度制御手法(坂本 拓馬)
近年,大容量データの増加によって,家庭内に構築したLAN環境であるホームネットワークとインターネット間の通信帯域の逼迫が危惧されている.また,IoT機器の普及により,ホームネットワークに接続される機器が増加しており,重要度やQoS要件といったデータ特性の異なる通信が存在している.そのため,通信のデータ特性を考慮せずに通信を制御すると.通信帯域が逼迫した際に,重要な通信のパケットロスやQoSの低下などの問題が生じる恐れがある.
この問題を解決するために,重要度やQoS要件などのデータ特性を考慮して通信を4つのカテゴリに分類し,状況に応じて動的に優先度を設定する優先度制御手法が提案されている.この手法では,各カテゴリに優先度を設定し,動的な優先度の変更を行っている.しかし,ホームネットワークにおいて多くの通信が存在する環境でデータ特性のみを考慮して優先度の変更を行うと,同じデータ特性の通信が複数存在した場合,ユーザが必要とする通信が低優先度に設定されるなど,ユーザの意思が反映されない可能性がある.ホームネットワークでは,ユーザによって通信の重要度や需要が変化し,ユーザの意思が反映されない場合ユーザが必要とする通信が破棄される恐れがある.
本研究では,データ特性の考慮に加え,各通信にユーザの意思に応じた優先度の付与を行うことで,ユーザによる重要度や需要の変化に応じて通信を制御する優先度制御手法を提案する.
CAVのセンサ検知範囲の重複度に応じた送信間隔割り当て手法(山崎 慎也)
近年,自動運転技術に関する研究が盛んに行われている.2020年11月に,世界で初めて日本は自動運転レベル3の型式指定を実施し,車線維持機能に限定して,高速道路等において60km/h以下の渋滞時等における作動を実現している.日本政府は2025年を目処に自動運転レベル4の実現に向けて高速道路での60km/h以上の自動運転機能の安全基準等の策定を政府目標としている.また,レーザー光を用いて物体までの距離や形状を計測するLiDARやカメラ等の多数のセンサを搭載した協調型自動運転車両(CAV)の研究も注目されている.CAVは常に周辺環境を検知し,そのデータを基に他車両や静的な高精度3次元データに動的な交通情報を集約したダイナミックマップを管理するクラウドとリアルタイムで通信することで,より安全で効率的な道路交通を実現することが期待されている.
しかしながら,多数のCAVの通信による通信帯域の逼迫が懸念されており,動的に変化する道路環境において通信や処理の遅延は事故に繋がるが懸念されている.したがって,通信頻度や通信するデータ量を抑える必要がある.
本研究では,このようなCAVの通信帯域の逼迫を解決するために,CAVのセンサ検知範囲の重複度に応じて冗長性が高いセンサ情報の送信頻度を下げることで動的な送信間隔割り当て手法を提案し,シミュレーションで評価する.
時空間予約マイクロロードプライシングのオークション方式による価格設定手法の提案(松村 学)
近年,工事情報や渋滞情報などの動的情報と高精度3次元位置情報(路面情報,車線情報)等の静的情報を組み合わせたデジタル地図であるダイナミックマップの研究が進められている.この技術を用いることで,協調型自動運転車両が走行予定である経路の時間と空間を事前に予約し,他の車両を排除することで,よりスムーズな走行を可能にする時空間グリッドという考え方が確立された.今後ダイナミックマップの活用や,協調型自動運転車両の普及につれて安全運転支援や渋滞緩和などの役割を果たすと期待されている.
また,ロードプライシングという考えのもと,時空間によって分割したグリッドそれぞれに値段を付け,その時空間グリッドを走行するための予約に料金を必要とするマイクロロードプライシングの実現を目指す研究も行われている.このマイクロロードプライシングでは,車両のスムーズな走行が可能となる一方で,事前予約の優先度がない場合や価格設定によっては,車両の予約が集中する問題が生じ,一部車両の旅行時間の増大が問題点となる.
そこで本研究では,マイクロロードプライシングでの時空間グリッド予約において,車両が支払う料金に応じて予約の優先度を決定するオークション方式を導入する.これにより関連研究に対して出発地から目的地までの旅行時間の短縮を目的とする.
移動環境におけるビデオストリーミング品質向上のためのMPQUICスケジューラの検討(松下 翔太)
近年,ビデオコンテンツの需要が高まっており,2022年にインターネットトラフィックのうち82%がビデオストリーミング(以下,ストリーミング)のトラフィックとなることが予測されている.ストリーミングにおいて,その品質に着目すると,パケットロスや遅延などによりストリーミングが停滞することのないように通信帯域を確保することが必要となる.そこで,LTEや5Gといったセルラー回線や無線LANなどの複数の通信経路を併用することで通信帯域を確保する技術である,マルチパストランスポートプロトコルが注目されている.しかし,5Gや無線LANを利用する場合,ユーザの移動によって5Gや無線LANとの距離が遠くなり,通信経路を喪失し,パケットロスが発生する.到達できなかったパケットは再送されるが,再送による遅延が発生し,ストリーミング品質が低下するという課題がある.
そこで本研究では,移動環境下のモバイル端末でストリーミングする状況において,受信信号強度に応じて通信経路を選択する手法を提案することで,経路喪失によるパケットロス及び遅延を削減し,ストリーミング品質向上の効果を検討する.
道路環境を考慮した優先度によるダイナミックマップシステムの負荷分散方式(谷澤 直大)
近年,研究が行われている協調型自動運転社会の実現のためには,自車位置を正確に認識し,交通状況に応じた予測運転を行うための手段として,高精度3次元地図に交通情報などを付加した概念的なデータの集合体であるダイナミックマップというシステムが注目されている.これによって,リアルタイムな道路交通状況を管理し,交通支援サービスを提供するようなプラットフォームを「ダイナミックマップシステム」と呼び,地理的に分散配置したエッジサーバを用いたダイナミックマップシステムの研究が行われている.しかし,エッジサーバは計算資源が限られているため,従来のダイナミックマップシステムでは,渋滞などで多数の車両からのアクセスが集中した際の拡張性について考慮されていない.そこで現在,エッジサーバの拡張性を考慮した処理の負荷分散方式が検討されている.
本研究では,エッジサーバを用いたダイナミックマップシステムにおける処理の負荷分散をする際,道路環境を考慮して走行調停の重要度に応じた優先度を付与し,その優先度をもとに移譲するエリアを決定する新たな負荷分散方式を提案する.