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2021年度卒業論文発表会

2022-02-19

2021年度の卒業論文発表会において,佐々木 雄大(B4),樫原 侑磨(B4),国本 典晟(B4),土居 大輝(B4),鈴木 彩門(B4),齊藤 慶一(B4),平光 樹(B4),宮脇 弘充(B4),西川 瑳亮(B4)の9名が以下のタイトルで発表を行いました.

Webコンテンツに応じたHTTPプロトコル切替によるページ読込み時間削減手法(佐々木 雄大)

20220219 YSasaki

近年,スマートフォンの普及や,インターネットインフラの改善による高品質ネットワークの増加などにより,Webの利用率は上昇している.一方で,Webページ読込み時間の増加は,ユーザ満足度に影響し,ユーザは読込み速度の遅いWebページから離れる傾向にある.こうした状況を踏まえ,Webページ読込み時間を削減するために開発され,現在IETF(The Internet Engineering Task Force)によって標準化が進められているのがQUICである.しかし,高い通信帯域幅かつ非常に低い遅延,及び低いパケットロス率となる高品質ネットワークでは,QUICがTCPよりも低い性能を示すことがあると指摘されている.また,Webページが多数の小さなサイズのサブリソースで構成されている場合,QUICが大きな利点を提供しないことも指摘されている.以上のことから,どのような場合においてもHTTP/3が最適なプロトコルであるとは限らない.また近年では,Yahoo!やWeb漫画サイトなど,多数のサブリソースで構成されるWebコンテンツも増加している.そこで本研究では,高品質ネットワーク環境下において,読込むコンテンツ内容によってサーバ側で動的にプロトコルを選択することで,ページ読込み時間を削減する手法を提案する.

Low-rate DDoS攻撃対策のための再送タイムアウトのアルゴリズムの提案(樫原 侑磨)

20220219 YKashihara

高橋らは,実際のネットワーク環境として,IoT機器から攻撃を行う環境を想定した実験を行い,Low-rate DDoS攻撃による被害が懸念されることを述べている.Low-rate DDoS攻撃の特徴として,攻撃元が送信する時間当たりの攻撃パケット量が小さいため,検知がしにくい点と,TCP通信の再送タイムアウトの仕様を利用している点がある.再送タイムアウトとは,輻輳などで通信が正しく受信されなかった場合,一定時間後に再送する仕組みのことである.Low-rate DDoS攻撃の特徴を考慮した攻撃対策の1つとして,再送タイムアウト時間を変更する手法がある.しかし,関連研究の手法ではサーバのスループットが確保されていない.そのため,Low-rate DDoS攻撃による被害を軽減するアルゴリズムが必要である.スループットとは,攻撃被害の軽減を示す指標であり,攻撃対象となるサーバがクライアントに送信できたパケット量を指す.本研究では,Low-rate DDoS攻撃による被害を軽減するため,新たなアルゴリズムを提案し,既存のアルゴリズムと比較して,サーバにおけるスループットを向上させることを目的とする.

ホームネットワークにおけるデータ特性を考慮したSDNによる優先度制御手法(国本 典晟)

20220219 TKunimoto

動画などの大容量データの増加やIoTデバイスの普及に伴い,家庭内に構築したLAN環境であるホームネットワークとインターネット間の通信帯域の逼迫が危惧されている.通信帯域が逼迫した場合,送信するべき優先度が高いデータを送信したいときに送信できない問題が生じる.この問題を解決するため,ホームネットワークの通信を分類し優先度を設定して,ホームネットワークとインターネットサービスプロバイダ(ISP)のサーバ間の通信の優先度制御を行なった研究がある.しかし,分類された通信に設定された優先度は固定されており、変更することができなかった.ホームネットワークには,重要度やQoS要件,リアルタイム性といったデータ特性の異なる通信が混在する.ユーザや家庭の状況に応じて優先したいデータ特性は異なるが,既存の固定された優先度では,状況に応じた柔軟な優先度制御はできなかった.本研究では,Software-Defined Networking(SDN)を用いてホームネットワークとISPサーバ間の通信の優先度制御を行う手法を提案する.ホームネットワークの通信の動的に優先度を設定することで,状況に応じた優先度制御を行う.また,優先度の高い通信の通信帯域を確保するために優先度の低い通信を意図的に破棄するアドミッション制御を行うことで,優先度の高いデータを送信したいときに送信できない問題を解決する.

クラウドゲームにおけるネットワーク遅延低減のための入力予測と分散処理(土居 大輝)

20220219 TDoi

現在,ゲーム産業ではクラウドゲームが注目されている. クラウドゲームではクライアント側の処理が必要最低限に 抑えられており,ゲーム内の演算処理やレンダリングは全 てサーバで行われる.これによって,クライアントは端末 の性能を気にすることなくプレイ可能で,サーバの強力な GPU を用いた高画質なゲーム画面でプレイすることも可 能になる.また,開発者側にもいくつか利点がある. 一方で,クラウドゲームはネットワークを経由して処理 を行うため,サーバとユーザ間でデータの往復にかかる時 間 RTT(Round-Trip Time) の影響を受ける.そのためネッ トワーク遅延を低減することが可能な手法が必要である. 本研究では,クラウドゲームにおけるネットワーク遅延 を改善するために用いられる入力予測に着目する.入力予 測を行う際に,一つの状態を予測するのではなく複数の状 態を予測することで,予測が大きく外れた場合でも,予測 をやり直さずに対処可能な手法を提案する.

複数人による AR 空間文字情報共有時の向き補正手法(鈴木 彩門)

20220219 SSuzuki

近年,Augmented Reality(AR)技術は,一般の人々にも触れる機会が増え,身近なものになりつつある.しかし,従来のAR技術は,他人と共有するインタラクティブ性がないと指摘されていた.そこで,ARを複数人で共有する技術が提案され始めている.その際,ARオブジェクトに文字情報を反映させ,現実空間の物体に情報を注釈として付与するアノテーションを重畳表示させることがある.この例では,ARオブジェクトを設置したユーザに対面するユーザからは,記載されている内容を認識することができない.AR共有のユースケースの一つであるコミュニケーションにおいて,意思伝達が困難であることは,重要な問題である.そのため,表示された情報が受信したユーザからも認識できるような仕組みが必要である.本研究では,現実空間に設置したARオブジェクトに反映させた文字情報の,複数人視点での認識を可能にすることを目的とする.立ち位置によって文字を認識できない問題を解決するため,文字が各ユーザの方向を向くように,ARオブジェクトの向きを補正する手法を提案し,提案手法の有用性を評価する.

車両密度を考慮したエッジサーバの利用によるダイナミックマップシステムの負荷分散方式(齊藤 慶一)

20220219 YSaito

リアルタイムな道路交通状況を管理し,交通支援サービスを提供するプラットフォームであるダイナミックマップシステムは,クラウドサーバにデータ管理機能を一極集中させたシステム構成が検討されている.しかし,ダイナミックマップシステムを都市規模に展開すると,クラウドサーバに対して高頻度に大量のアクセスが集中するため,処理負荷や,通信遅延が問題となる.そのため,現在研究開発が進められているダイナミックマップシステムは一極集中型のシステム構成ではなく,エッジサーバを地理的に分散配置し,それぞれでデータを管理する分散型のシステム構成となっている.エッジサーバとは,サービスを利用する車両の近くで処理を実行するサーバを指す.しかし,従来のエッジサーバを用いたダイナミックマップシステムでは,2つの問題が存在する.まず一つ目は,エッジサーバの計算資源が限られていること.二つ目は,エッジサーバで負荷を分散できないシステム構造であること.そのため,交通渋滞によって1台のエッジサーバに膨大な数の車両からのアクセスが集中する場合に,計算資源が足りず,求められる応答性能を維持できず,交通安全に関わるサービスの提供に支障をきたす恐れがある.本研究では,これらの問題を解決するために,エッジサーバが管理しているエリアの一部を,計算資源に余裕のあるエッジサーバに移譲する負荷分散方式を提案する.そして,シミュレーションを行い,エッジサーバのスケーラビリティが向上することを目的とする.

路側機による車両密度に応じた動的VANET制御手法(平光 樹)

20220219 THiramitsu

近年,VANET(Vehicular Ad Hoc NETwork)の研究が多く進められている.VANETとは,車両同士の車々間通信によって構築されるアドホックネットワークである.車両内部,車両相互,外部との通信手段を持たせることで,VANETによる様々なサービスへの活用が期待されている.しかし,VANETには通信の際に,一定範囲内に存在する車両の台数(以降,車両密度と呼ぶ)の影響を強く受けるという問題が存在する.車両密度が高い場合,車両台数の増加に伴いトラフィック量が増大し,メッセージの衝突が増加する.それにより,VANETでのメッセージの送信効率が低下する.また,逆に車両密度が低い場合,車両同士が通信可能な範囲から外れ,メッセージの送信に失敗する.そこで,このことから,車両密度が高い場合と低い場合両方の状況に対応した通信方式が求められる.車両密度が高い場合はメッセージの衝突を削減し,車両密度が低い場合は車両間の通信を中継し,メッセージを到達させる必要がある.本研究では,VANETにおける問題点を解決するために,車両密度に応じた通信方式の動的制御を行うことでメッセージの送信効率の向上を目的とする.路側機が車両密度を把握し,車両密度が高い場合は,路側機が車両に優先度を設けることでメッセージの衝突を回避し,車両密度が低い場合は,路側機が車両のメッセージを中継する手法を提案する.シミュレーションによって,この手法を評価し,車両密度によらずメッセージの送信効率が向上することを示す.

フリースペース情報を利用した高速道路合流手法(宮脇 弘充)

20220219 HMiyawaki

近年,自動運転技術に関する研究が活発に行われている. さらに, V2X(Vehicle-to-everything) 通信を利用して,車載 センサの死角や周辺車両の情報を得られるコネクテッド カーがある.コネクテッドカーと自動運転技術を併用することにより,現在に比べ効率的な交通になることが期待さ れている. しかしながら,コネクテッドカーが実用化されたとして も,市場への普及の過程で,通信に対応していない車両(通 信非対応車両)とコネクテッドカーが混在する状況が生じ る.そのため,通信非対応車両の存在を考慮した仕組み作 りが必要である. そこで本研究では,コネクテッドカーと通信非対応車両 が混在する高速道路の合流部において,合流車線のコネ クテッドカーが本線に合流する手法を提案し,シミュレー ションによって効率と安全性を検討する.

ビーコンレンジ署名によるV2X通信なりすまし検知手法(西川 瑳亮)

20220219 SNishikawa

近年, ITSの分野において,自動運転や V2X ( Vehicle To Everything )通信の研究が盛んに行われている.その中で, クラウドを利用した安全運転支援サービスがあり,注目されつつある.一方で,クラウドを利用したシステムにおいて,クラウドに対する不正なデータ転送などの攻撃がシス テムに大きな影響を与える.そういった攻撃の一つに 車両がクラウドに位置データを偽装した不正なデータを送 信する行為がある .なお,本論文において位置データを 偽装する行為を「なりすまし」と定義する.車両がなりすましをし,事故車を装って渋滞を巻き起こすなど,なりす まし攻撃は安全運転支援サービスにとって脅威であり,対 策が必要である. 本研究では,車両の位置データと道路に設置している ビーコンの署名されたタイムスタンプ付きのデータを併 せて送信することにより,特定の時間にビーコン通信範囲 (レンジ)内に存在したことを証明するといったビーコンレ ンジ署名という考えを用いて,車両のなりすましを検知することを目的とする.

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