2022年2月4日の第135回月例発表会(B4)において,佐々木 雄大(B4),西川 瑳亮(B4),平光 樹(B4),国本 典晟(B4),齊藤 慶一(B4),樫原 侑磨(B4),鈴木 彩門(B4),宮脇 弘充(B4),土居 大輝(B4)の9名が以下のタイトルで発表を行いました.
Webコンテンツに応じたHTTPプロトコル切替によるページ読込み時間削減手法 (佐々木 雄大)
近年,スマートフォンなどの普及により,インターネットの利用率は増加している.一方で,通信品質の悪化などによるWebページ読込み時間の増加は,ユーザ満足度に影響し,ユーザは読込み速度の遅いWebページから離れる傾向にある.
こうした状況を踏まえ,Webページ読込み時間を削減するために開発され,現在IETFによって標準化が進められているのがQUICである.しかし,高い通信帯域幅かつ非常に低い遅延及びパケットロス率となる高品質ネットワークでは,QUICがTCPよりも低い性能を示すことがあると指摘されている.これは,アプリケーションとして実装されているQUICは,カーネルレベルで実装されているTCPに比べ,メモリやCPUなどが非効率であるためである.また,Webページが多数の小さなサイズのサブリソースで構成されている場合,QUICが大きな利点を提供しないことも指摘されている.
以上のことから,どのような場合においてもHTTP/3が最適なプロトコルであるとは限らない.そこで本研究では,高品質ネットワーク環境下において,読込むコンテンツ内容によってサーバ側で動的にプロトコルを選択することで,ページ読込み時間を削減する手法を提案する.
ビーコンレンジ署名によるV2X通信なりすまし検知手法 (西川 瑳亮)
近年,ITSの分野において,自動運転やV2X通信の研究が盛んに行われている.その中で,クラウドの利用が注目されつつあり,災害時などに実際に車両が通った道のデータを集め,地図上に通行可能な道として表示したり,事故車の位置を特定してパトロールを行なったりなどのざまざまな安全運転支援サービスが提供できる.
一方で,クラウドを利用したシステムにおいて,クラウドに対する不正なデータ転送などの攻撃がシステムに大きな影響を与える.そういった攻撃の一つに車両がクラウドに走行データや位置データを偽装した不正なデータを送信する行為がある.なお,本論文において走行データや位置データを偽装した不正データを送信する行為を「なりすまし」と定義する.位置情報を偽装し,事故車を装って渋滞を巻き起こすなど,なりすまし攻撃は安全運転支援サービスにとって脅威であり,対策が必要である.
本研究では,車両の位置データと道路に設置しているビーコンの署名されたタイムスタンプ付きのデータを併せて送信することにより,特定の時間にビーコン通信範囲(レンジ)内に存在したことを証明するといったビーコンレンジ署名という考えを用いて,車両のなりすましを検知することを目的とする.
路側機による車両密度に応じた動的VANET制御手法 (平光 樹)
近年,VANET(Vehicular Ad Hoc NETwork)の研究が多く進められている.VANETとは,車両同士の車々間通信によって構築されるアドホックネットワークである.これにより,運転支援,道路交通情報の伝送,ユーザ通信など様々な利用方法が期待できる.VANETは道路の状態によらずネットワーク網を構築できることも利点の一つである.しかし,VANETには通信の際に車両の密度の影響を大きく受けるという課題が存在する.車両密度が高密度な場合,車両台数の増加によってトラフィック量が増加し,それに伴ってパケットの衝突が増加するためパケットロス率が上昇する.また,逆に車両密度が低密度な場合,車両間の距離が離れすぎて通信可能範囲から外れてしまい,通信の切断が頻繁に起こる.そこで,車両密度が高密度時と低密度時両方に対応した通信方式が求められる.本研究では,各交差点に配置された路側機が周辺の車両密度に応じて,高密度時と低密度時で車両に対する処理を一定周期で動的に変化させる手法を提案する.車両密度が高密度な場合,メッセージ伝送の規格であるIEEE802.11eのHCCA(Hybrid coordination function Controlled Channel Access)と呼ばれるアクセス制御方式を用い,車両の通信に優先度を設け高密度時の課題を解決する.低密度な場合,路側機は車々間通信の中継を行い,低密度時を解決する.この提案手法の有効性をシミュレーションによって評価する.
ホームネットワークにおけるデータ特性を考慮したSDNによる優先度制御手法 (国本 典晟)
Software-Defined Networking(SDN)技術の普及により,柔軟なネットワークの構築が可能となり,企業ネットワークやICTシステムに利用されている.一方,LAN環境を家庭内に構築したホームネットワークは,動画などの大容量データの増加やIoTデバイスの普及に伴い,通信帯域の逼迫が危惧されている.この問題の解決のため,SDN技術のホームネットワークへの適用が期待されている.しかし,ホームネットワークには様々なアプリケーションによる特性の異なるデータが混在する.現在のインターネットサービスプロバイダ(ISP)はデータの特性を考慮せず同様に制御するため,通信帯域が逼迫した際に,重要なパケットの損失やQuality of Serviceの低下などの問題が生じる.これに対して,データを遅延要件に基づき分類した研究があるが,テレワークの増加など,昨今のリアルタイム性の高い通信の需要を十分に考慮できていない.
本研究では,ホームネットワークのデータをリアルタイム性を含む特性を考慮して優先度を設定し,分類する.その分類を元に,通信帯域に合わせて優先度制御を行う手法を提案する.
車両密度に基づくエッジサーバの利用によるダイナミックマップシステムの負荷分散方式の検討 (齊藤 慶一)
協調型自動運転社会の実現に向けた研究開発が進んでおり,高度な自動運転システムを実現するための中核技術としてダイナミックマップをデータ基盤として利用し,合流調停や車線変更などの複数の交通支援サービスを提供するダイナミックマップシステムが着目されている.ダイナミックマップシステムではクラウドを利用した一極集中型のシステム構成が検討されている.しかし,ダイナミックマップシステムを都市規模に展開すると,クラウドサーバに対して高頻度に大量のアクセスが集中するため,処理負荷や通信遅延が課題となる.そのため,現在研究開発が進められているダイナミックマップシステムは一極集中型のシステム構成ではなく,地理的に分散配置したエッジサーバを利用して処理負荷を分散するシステム構成となっている.
しかし,上記の研究開発において,エッジサーバ自体の拡張性について考慮がなされていない.そのため,都市部などで交通渋滞によって一つのエッジサーバに車両からのアクセスが集中する場合に,CPUなどの計算資源が足りず,求められる応答性能を担保できない可能性がある.その結果,合流調停支援などの交通の安全に関わるサービスの提供に支障をきたす恐れがある.
本研究では,渋滞などで特定のエッジサーバの管理エリアに車両が集中する場合に,エッジサーバの拡張性の向上を目的とし,管理エリアの一部を計算資源に余裕のあるエッジサーバに委譲するダイナミックマップシステムの負荷分散方式を提案する.
再送タイムアウトを利用した低レートDoS攻撃対策の検討 (樫原 侑磨)
インターネットにおけるサイバー攻撃の手法としてDoS(Denial of service)攻撃,DDoS(Distributed DoS)攻撃があり,インターネット利用者にとって大きな脅威となっている.その対策として,通過するパケットを監視し,記録された動作との比較から異常を検知する手法(アノマリ検出)がある.一方で,Low-Rate DDoS攻撃と呼ばれる攻撃があり,DDoS攻撃と比較して小さいパケット量でサービス妨害が可能であることが示されているが,Low-Rate DDoS攻撃による実際の被害は未だ出ていない.そこで高橋らは,実際のネットワーク環境を想定した実験を行い,Low-Rate DDoS攻撃による被害が懸念されることを述べている.Low-Rate DDoS攻撃の特徴として,攻撃パケット量が小さいため,アノマリ検出で検知しにくい点と,TCP通信の再送タイムアウトの仕様を利用している点がある.TCP再送タイムアウトとは,輻輳などで通信が正しく受信されなかった場合,一定時間(RTO)後に再送信する仕組みのことであり,連続して再送信が失敗した場合,RTOiは以下の式のように表される.
Low-Rate DDoS攻撃は,再送信が行われる短い時間の間に,攻撃を受ける機器に,小さいパケット量で輻輳を意図的に起こすことで,再送信を連続的に発生させ,正規の通信を妨害する.これを簡易化したものが図1であり,最初の再送であるminRTOが経過し,2回目以降の再送タイミングと,Low-Rate DDos攻撃の瞬間が重なっているのが分かる.Low-Rate DDoS攻撃の対策の1つとして,再送タイムアウトを変更する手法があるが,スループットが確保されていないため,攻撃被害の軽減が十分でない.そのため,Low-Rate DDoS攻撃による被害を軽減するアルゴリズムが必要である.スループットは攻撃被害の緩和を示す指標であり,本研究では,標的サーバに接続しているルータが受信できるパケット量(Mbps)を指す.
複数人によるAR空間文字情報共有時の向き補正手法 (鈴木 彩門)
近年,AR技術を複数人で利用することが盛んに行われている.同一のARオブジェクトを現実空間に重畳する事によって,ミーティングやゲーム等において,コミュニケーションの幅を広げられると期待されている.ARオブジェクトを複数人で共有する際,ARオブジェクトに文字情報や画像を反映させることがある.例として,現実空間にある物体に説明書きのテキストを重ねる場合が考えられる.このとき,ユーザ同士が対面した位置にいる場合,内容を認識することができない.
本研究では,AR共有の手法の中でも,LiDARを用いた手法に着目する.また,ARオブジェクトに反映させた文字情報をAR空間文字情報と定義する.現実空間に表示した,AR空間文字情報を反映しているARオブジェクトを複数人で共有した際,文字が各ユーザの方向を向くようにARオブジェクトの向きを補正する手法を提案する.
フリースペース情報を利用した高速道路合流手法 (宮脇 弘充)
近年,自動運転技術に関する研究が活発に行われている.今後,自動運転車の研究開発が進むに伴い,自動運転車は徐々に普及が進んでいくと考えられる.さらに,V2X(Vehicle-to-everything)通信を利用して,車載センサの死角や周辺車両の情報を得られるコネクテッドカーがある.コネクテッドカーと自動運転技術を併用することにより,現在に比べ効率的な交通になることが期待されている.しかしながら,コネクテッドカーが実用化されたとしても,市場への普及の過程で,通信に対応していない車両(通信非対応車両)とコネクテッドカーが混在する状況が生じる.そのため,通信非対応車両の存在を考慮した仕組み作りが必要である.
そこで本研究では,コネクテッドカーと通信非対応車両が混在する高速道路の合流部において,本線のコネクテッドカーが合流車線のコネクテッドカーにフリースペース情報を共有することで,合流する手法を提案し,シミュレーションによって効率を検討する.
クラウドゲームにおけるネットワーク遅延低減のための入力予測と分散処理 (土居 大輝)
現在,ゲーム産業ではクラウドゲームが注目されている.クラウドゲームではクライアント側の処理が必要最低限に抑えられており,ゲーム内の演算処理やレンダリングなどは全てサーバで行われる.これにより,クライアントは端末の性能を気にすることなくプレイ可能で,サーバの強力なGPUを用いた高画質なゲーム画面でプレイすることも可能になる.また,開発者側にもいくつか利点がある.まず,ハードウェアの互換性を考える必要がなくなり,バグへの対応やバージョンのアップデートなどのサーバの管理も容易になる.他にもゲームデータが手元に無いため,物理的にゲームデータの改竄などのチート行為を防ぐことも可能である.
一方で,クラウドゲームはネットワークを経由して処理を行うためネットワーク遅延の影響を受ける.ユーザは遅延が60msの時点で遅延に気づき始め,100ms程の遅延からゲームのプレイを阻害するほど違和感を与える.さらに遅延が悪化し,150ms,250msなどになってくるとユーザのゲームへの没入感が75%低下すると言われている.そのためネットワーク遅延を低減することが可能なシステムが必要である.
そこで本研究では,クラウドゲームにおけるネットワーク遅延を改善するために用いられる入力予測に着目する.入力予測を行う際に,一つの状態を予測するのではなく複数の状態を予測することで,予測が大きく外れた場合でも,予測をやり直さずに対処可能なシステムを構築することを目的とする.