2025年4月5日の第166回月例発表会において,富成 泰生(M1),森 梓恩 (M1),松浦 薫(M1),野田 虎之介(M1),徳重 柊人(M1),藤原 直己(M1)の6名が以下のタイトルで発表を行いました.
路側センサと歩行者端末の統合利用による歩行者移動情報を活用した歩行者特定の精度向上(富成 泰生)
近年,交通事故の発生件数や死傷者数は年々減少傾向にある.一方で,依然として歩行中の交通事故における重傷者数は年間 6,800 件に達しており,これらの事故を防止するためには衝突事故防止技術のさらなる高度化が求られる.そのため,車両に対して歩行者の存在を通知し,警告を発するシステムの研究が進展しているが,車両だけでなく,歩行者自身にも警告を提供することで,交通事故のさらなる軽減が期待される.この観点から,路側センサやカメラを用いた歩行者特定に関する研究が進展している.しかしながら,路側センサが検知した歩行者と歩行者が所持する端末を特定する必要があるため歩行者への直接的な警告を提供することが難しい状況にある.そこで,路側センサと歩行者端末の統合利用を行う.歩行者情報を取得する手段としては,路側センサであるLiDAR(Light Detection and Ranging)及び,歩行者端末に搭載されている GPS(Global Positioning System)センサが挙げられる.LiDAR は,検出範囲内において歩行者の高精度な各時間の位置情報を取得可能であり,GPS センサは,5~10m の誤差があるものの,歩行者の属性情報や各時間の位置情報を取得可能である.これらのデータを統合することで,路側センサが検知した歩行者と歩行者が所持する端末特定が可能となる.また,以降は各歩行者が所持する端末を歩行者端末と表記する.
車両位置情報を利用した車車間通信隠れ端末問題軽減のための無線リソース割り当て手法の検討(森 梓恩)
近年,車両同士が基地局などを介さず直接通信を行い,位置情報などを共有する車車間通信に関する研究が行われている [1].車車間通信において,車両はパケットを送信するために,周波数と時間を選択する.このとき互いに通信範囲内に位置する複数の車両が,同じ周波数と時間でパケットを送信するとパケット衝突が発生するため,異なる周波数と時間でパケットを送信する必要がある.車両は利用可能な通信帯域と時間である無線リソースを一定の周波数領域と時間領域に分割したブロックを利用し,他車両と同じブロックを選択しないように,ブロックの割り当てを行う.無線リソースのブロック割り当て方式として,SPS(Semi-Persistent Scheduling)方式がある [2].SPS 方式は通信範囲内の車両から取得した過去のブロック使用情報や,予約された将来のブロック使用情報を基に,車両が自律的にブロックを選択する.そのため,通信範囲内の車両同士が異なるブロックを選択するように割り当てることが可能である.しかし,SPS 方式では隠れ端末問題が考慮されていない.隠れ端末問題とは,互いに通信範囲外に位置する隠れ端末車両同士が同じ無線リソースのブロックを選択している場合に,隠れ端末車両同士の通信範囲が重なる重畳領域に位置するさらし端末車両において,パケット衝突が発生し,パケットが受信できないという問題である.そこで本研究では,互いに通信範囲外の車両同士が異なるブロックを選択するように,車両位置情報とブロックを対応付ける無線リソースのブロック割り当て方式を検討する.隠れ端末問題を軽減することで通信の信頼性向上を行う.
移動環境における安定的配信継続のための MPQUIC パケットスケジューラーの検討(松浦 薫)
2021 年に標準化された通信プロトコルの QUIC では,通信インタフェースの変更に伴って IP アドレスが変化しても,同じコネクションで通信を継続するマイグレーション機能が備わっている.しかし,移動環境下において,単一の通信経路のみで通信を行うと高い通信速度を持続的に確保できない場合が発生する.そこで,複数の通信経路を同時に使用できるマルチパス拡張(以下,MPQUIC)によって通信帯域を集約することが期待される.MPQUIC では,経路の利用優先度を設定し通信相手に通知する機能が備えられているが,優先経路の通信状況に基づいて動的に非優先経路の併用を選択するための仕組みが欠けている.そのため,無料で利用できる Wi-Fi のみでアプリ要件を満たすことができる場合においても従量課金制のセルラ通信を冗長に利用してしまう.そこで本研究では,複数の通信経路が利用可能な移動環境において安定的な配信を継続しつつ,非優先経路の冗長な通信を避けるために,優先経路の受信信号強度によって各通信経路の利用を動的に選択するパケットスケジューラを提案する.
AR環境におけるタッチタイピング可能な仮想入力インターフェースの検討(徳重 柊人)
近年,AR(Augmented Reality)に関する研究が行われており,特に Microsoft HoloLens や Apple Vision Pro などのHMD(Head Mount Display)を用いた ARHMD は,汎用的な対話型情報端末として使用が検討されている.ARHMD は頭部に装着し,透過レンズを通して現実世界に重畳された仮想オブジェクトを閲覧したり,直接触れて操作することができる機器である.ARHMD における文字入力手法は,仮想空間に配置されたキーボード(以下,仮想キーボード)に手で直接触れて操作する形式である.しかし,既存の入力手法では人差し指のみを用いた操作であり,直感的な操作が可能である一方,複数の指で入力できない課題点がある.また,キーボードを直接操作する必要があるため視線や頭部,腕の動きが求められユーザビリティが物理キーボードと比べ低下する.本研究では,ARHMD を用いた文字入力において,頭部の動きを削減し,複数の指を用いた入力の精度を向上させることを目的とする.そして,タッチタイピング,すなわち手元を見ずに入力が可能な仮想キーボード入力手法を提案しユーザビリティを検討する.
ダイナミックマップシステムのための車両走行環境に基づくエッジサーバ動的負荷分散手法(野田 虎之介)
近年,センサで取得した周辺環境情報を車両間で通信・共有し,協調的に走行を行うことで交通の安全性を高める協調型自動運転の研究が進められている.従来の協調型自動運転においては,通信で共有された周辺環境情報が車両ごとに個別に管理されており,周辺環境情報の効率的な活用が課題となっている.この課題に対して,車両や路側センサから取得した動的な周辺環境情報を高精度道路地図に重畳することが可能な情報通信プラットフォームであるダイナミックマップシステムを用いることで,一元管理が可能となる [1].従来の中央集約型ダイナミックマップシステムでは,大量のアクセスに伴う処理負荷や通信遅延が問題視されてきた.そのため,エッジサーバを地理的に分散配置し,各サーバがデータを管理する分散型ダイナミックマップシステムの研究が進められており,処理負荷の分散や通信遅延の低減が期待されている.しかしながら,エッジサーバを用いた分散型ダイナミックマップシステムには,エッジサーバの計算リソースが限られていることや,車両が位置する場所の地理情報が必要不可欠であるため,処理負荷の分散が困難なシステム構造という課題が存在する.その結果,特定のエッジサーバにアクセスが集中した場合,計算リソースが不足し,交通安全に関わるサービスの提供に支障をきたす可能性がある.本研究では,特定のエッジサーバへのアクセスが増加して性能が維持できなくなる課題を解決するため,車両が集中して処理負荷が増大しているエッジサーバの管轄エリアの一部を隣接するエッジサーバに移譲することで処理負荷の分散を実現する手法を提案する.
時空間ボクセル予約による複数ドローンの飛行調停手法の検討(藤原 直己)
近年,ドローンは国土交通省の総合物流施策大綱において,物流における重要な新技術のひとつとして位置付けられており,都市部のような建造物等の構造物が多数存在する環境においての活用が検討されている.ドローンが複数台飛行する空間において,周辺環境の障害物だけでなく,他のドローンとの衝突を避けるために衝突回避行動をとる必要がある.ドローンの衝突回避手法として,各ドローンが障害物を検知することで衝突回避を行う手法,ドローン同士が位置情報などの情報を共有することで衝突を回避する手法がある.しかし,ドローンの飛行台数が増加することによる空域の混雑や,構造物が多数存在する環境下の飛行により,衝突回避性能が低下するという課題がある.また,衝突回避行動をとる際,従来の手法では迂回を行い元の経路に復帰するという動作をとることで,経路が遠回りとなる.そのため,衝突回避行動をとる必要がない状況と比べ旅行時間が大幅に増加することで,飛行効率が低下するという課題がある.そこで本研究では,構造物が多数存在する環境において,ドローンの飛行台数が増加しても衝突回避性能および飛行効率を維持することを目的とし,時空間ボクセル予約による複数ドローンの飛行調停手法を検討する.