2021年8月11日の第130回月例発表会(B4)において,佐々木 雄大(B4),国本 典晟(B4),宮脇 弘充(B4),平光 樹(B4),西川 瑳亮(B4),樫原 侑磨(B4),齊藤 慶一(B4),鈴木 彩門(B4),土居 大輝(B4)の9名が以下のタイトルで発表を行いました.
尚,新型コロナ感染拡大を考慮して,オンラインで開催いたしました.
Webコンテンツに応じたHTTPプロトコル変更によるページ読み込み時間削減手法(佐々木 雄大)
現在,インターネットの利用者は40億人を超え,世界人口の過半数がインターネットを利用している.特にスマートフォンの普及による,モバイルネットワークは急速に拡大が進んでおり,全世界で63億以上のモバイル回線契約がされている.モバイルネットワークは場所に依らず,移動しながら利用できるという利点がある一方で,場所や天候などにより通信遅延やパケットロスが生じ,通信品質が悪化することもある.
通信品質の悪化によるWebページ読み込み時間の増加は,ユーザ満足度に影響し,ユーザは読み込み速度の遅いWebページから離れる傾向にある.こういった状況を踏まえ,Webページ読み込み時間を削減するために開発され,現在IETFによって標準化が進められているのがQUICである.QUICでは,これまでTCP上で行われていた輻輳制御や再送処理が,UDP上で実装されている.これにより,TCPよりも遥かに大きな柔軟性が得られるほか,実装をアプリケーション内で行えるため,プロトコル実装のアップデートがOSのアップデートに依存しないなどの利点がある.
しかし,高い通信帯域幅かつ非常に低い遅延及びパケットロス率となる高品質ネットワークでは,QUICがTCPよりも低い性能を示すことがあると指摘されている.これは,QUICがアプリケーションとして実装されているため,カーネルレベルで実装されているTCPに比べ,メモリやCPUなどが非効率であるからである.また,Webページが多数の小さなサイズのサブリソースで構成されている場合,QUICが大きい利点を提供しないことも指摘されている
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以上のことから,どのような場合においてもHTTP/3が最適なプロトコルであるとは限らない.さらに,今後もインターネットインフラの改善は続いていくと考えられるため,HTTP/2を利用する方が最適であるネットワーク環境は,増えていくと考えられる.そこで本研究では,高品質ネットワーク環境下において,読み込むコンテンツ内容によってHTTP/2およびHTTP/3の性能評価を行い,その結果を元にサーバ側で動的にプロトコルを選択することで,ページ読み込み時間を削減する方法を提案する.
IoTアプリケーションの使用頻度を考慮したSDNによる通信制御手法(国本 典晟)
近年,画像や動画などの大容量データの需要が急速に拡大したことによるインターネット全体の帯域の逼迫が問題になっているが,IoTデバイスの増加とスマートホームの技術の進歩に伴い,ホームネットワーク内部の帯域並びにホームネットワーク外部のインターネットの帯域の逼迫はより深刻化すると予想される.現在,ISP(InternetServiceProvider)は各家庭の総帯域を契約した帯域の範囲内で制御しており,要求される帯域が回線の帯域を上回る場合、特定アプリケーションやユーザの帯域を制御することでネットワークの品質確保に努めている.しかし,そういった帯域制御は多様なサービスやトラフィックに最適化されたものではなく,IoTデバイスが要求する複数のQoS要件を満たすことができない.
この問題の解決を目指して,IoTデバイスのサービスカテゴリごとに適切な帯域を割り当てる管理アーキテクチャが提案されているが,複数のQoS要件を満たすためのアルゴリズムが課題になっている.本研究では,アプリケーションの使用頻度を考慮したIoTデバイス管理アーキテクチャの実装と評価を行う.
コネクテッドカーと通信非対応車両の混在状況における高速道路合流時の効率の検討(宮脇 弘充)
近年,自動運転技術に関する研究が活発に行われている.今後,自動運転車の研究開発が進むに伴い,自動運転車は徐々に普及が進んでいくと考えられる.さらに,V2X(Vehicle-to-everything)通信を利用して,車載センサの死角や周辺車両の情報を得られるコネクテッドカーがある.コネクテッドカーと自動運転技術を併用することにより,現在に比べ効率的な交通になることが期待されている.
しかしながら,コネクテッドカーが実用化されたとしても,市場への普及が進むまでには時間がかかり,通信に対応していない車両(通信非対応車両)とコネクテッドカーが混在する状況が生じると予想される.このような状況においてコネクテッドカーは,コネクテッドカー自身の情報だけでなく,通信非対応車両の情報も他のコネクテッドカーと共有する必要がある.
そこで本研究では,コネクテッドカーと通信非対応車両が混在する高速道路の合流部において,合流車線を走行するコネクテッドカーが本線に合流する手法を提案し,シミュレーションによって効率を検討する.
VANETにおける車両密度に応じたリーダー車両による動的制御手法(平光 樹)
近年,VANET(VehicularAdHocNETwork)の研究が多く進められている.VANETとは,車両同士の車車間通信によって構築されるアドホックネットワークである.俺により,運転支援,道路交通情報の伝送,ユーザ通信など様々な利用方法が期待できる.VANETは道路の状態によらずネットワーク網を構築できることも利点の一つである.しかし,VANETには車両密度が高くなると通信の効率が低下するという課題がある.高密度な場合,トラフィック量が増大しメッセージフレームの衝突が起こり,ネットワーク内におけるメッセージの送信効率が低下する.また,逆に車両密度が低い場合,頻繁な接続切断や隠れ端末問題といった課題が生まれる.このように密度の影響を受けやすいのがVANETの課題と言える.そこで本研究では,一定範囲内でのリーダー車両の選出とメッセージ伝送の規格であるIEEE802.11eのHCCA(HybridcoordinationfunctionControlledChannelAccess)と呼ばれるアクセス制御方式を用いる手法を提案する.本研究では,一定範囲内でリーダー車両を選出し,その範囲内当たりの車両台数を車両密度と定義し,車両密度に応じてリーダー車両の処理を動的に変化させる.車両密度が高い状況下では,HCCAを活用し車両通信を制御することで課題を解決する.対して,車両密度が低い状況下では,リーダー車両は車両情報の中継を行い,低密度時の課題を解決する.この提案手法の有効性をシミュレーションによって評価する.
ビーコンレンジ署名によるV2X通信なりすまし検知手法(西川 瑳亮)
近年,ITS(IntelligentTransportSystems)の分野において,自動運転や車車間通信の研究が盛んに行われている.車両は,車車間通信(V2V通信),路車間通信(V2I通信),歩行者の所持する端末との通信(V2P通信),携帯回線を利用したクラウドとの通信(V2C通信)を行うことができる.これらを総じてV2X(VehicleToEverything)通信という.車両がV2X通信を行うことで,クラウドは様々なデータを収集することができ,どの車がどの場所で事故を起こしたなどの車両情報・道路情報の管理から,ガソリン残量やタイヤの空気圧の状況によって警告する運転支援システムといった様々なシステムやサービスを提供することができる.一方で,クラウドを利用したシステムにおいて,クラウドに対する不正なデータ転送がシステムに大きな影響を与える.近年ではクラウドに対する不正なデータの転送やクラッキング行為が増加傾向にあり,クラウドを利用した安全運転支援サービスに対する攻撃も脅威となる.そういった攻撃の一つに車両がクラウドに走行データや位置データを偽装した不正なデータを送信する行為がある.なお,本論文において走行データや位置データを偽装した不正データを送信する行為を「なりすまし」と定義する.位置情報を偽装し,事故車を装って渋滞を巻き起こすなど,なりすまし攻撃はITSにとって脅威であり,対策が必要である.本研究では,車両の位置データと道路に設置しているビーコンの署名されたタイムスタンプ付きの位置データを同送することにより,特定の時間にビーコン通信範囲(レンジ)内に存在したことを証明するといったビーコンレンジ署名という考えを用いて,車両のなりすましを検知することを目的とする.
LDDos 攻撃対策におけるRTO変化の検証(樫原 侑磨)
インターネット利用時にて,サイバー攻撃の中でもDoS/DDoS攻撃が脅威である.中でも一般的なDoS 攻撃よりも少ない通信量で,TCPの再送タイムアウト機構を悪用した低レート(Low-rate) の攻撃,LDoS攻撃がルーター等で検出が困難な点で着目されている.
通常の通信では通信応答がRTT(Round Trip Time)で帰ってくる.輻輳などで応答がない場合は再送タイムアウト(RTO:Retransmission Timeout) を待った後,パケットの再送信を行う.LDoS攻撃はRTT間で続くバースト通信をRTO に基づいた値を用いて一定周期で送り続け,TCPのスループットを低下させるここでLDoS 攻撃対策として細井らはRTO の工夫による実現が望ましいとし,連続して再送する場合のRTO が RTOi = 2RTOi−1とRFC6298で整数倍で規定されているのを RTOi = (1+u)RTOi−1( for 0 < u < 1)とし,u に有理数を選ぶことで実際に攻撃緩和効果が認 められた.この研究を基に高橋は,実際に起こりうるLDDoS攻撃に関して調査をし,その攻撃性を検証した.がしかし,LDDoS攻撃に対して上記のRTOの変化が実際に有効であるかを検証していない.
そこで本研究では,新しく定義されたRTOがLDDoS攻撃対策に有効か否かの検証・考察を行う.
動的配置のロードバランサと処理の負荷分散によるダイナミックマップのエッジサーバの可用性向上の検討(齊藤 慶一)
自動運転社会の実現に向けた研究開発が進んでおり,高度な自動運転システムを実現するための中核技術としてダイナミックマップシステムが着目されている.先行研究では,車載システムなどの組み込み環境・通信基地局などのエッジ環境・データセンターのクラウド環境の三回層に跨った通信連携を行う分散データベースシステムとして実現されている.しかし,先行研究では,災害や事故による都市部の交通の大渋滞など,エッジサーバで通信遅延が許容遅延を上回ってしまうほどの負荷がかかった場合の対処は何も考慮されていないため,エッジサーバの可用性に支障をきたすという問題がある.また,先行研究ではエッジサーバごとにデータベースが独立しており,エッジサーバ間で負荷が偏っている場合でも余っているリソースを有効活用できない.
そこで本研究では,NFVによる仮想ロードバランサーなどを用いた負荷分散処理とDBアクセス調整による,余っているリソースを活用し,エッジサーバの可用性を向上させる手法を提案する.
ARコンテンツ共有のためのLiDARを用いた点群マップ統合(鈴木 彩門)
近年,LiDAR(LightDetectionandRanging)がより身近なものになってきている.LiDARは,レーザー光を使ったセンサであり,対象物までの距離や,位置,形状までを正確に検知することができる.この特徴を生かし,LiDARは自動運転に必要不可欠な技術として注目されている.しかし,LiDARは50年以上前から使われてきた技術でありながら,非常に高価であるため,あまり広まらず,長い間一般には認知されてこなかった.そのような中,LiDARの小型化・低コスト化が進み,ついに昨年には携帯端末にLiDARが搭載されるようになった.携帯端末でLiDARが使えるようになったことで、AR技術が発展すると期待されている.ARもまた,近年注目されている技術であるが,LiDARを組み合わせることにより,風景の奥行きを感知できるようになり,より高速で没入感の高いAR体験を提供できるようになったのである.ただ,現状のARは一人で使用することが多いが,近年では複数人でARを使用することへの需要が高まっている.複数人でARを共有する手法はいくつか研究されているが,LiDARを用いることで,その精度を上げることができると考えられる.
そこで本研究では,LiDARを用いることで,より正確に,よりリアルタイムに複数人でARを共有できるようにするための統合点群マップ生成をする手法を提案する.
クラウドゲームにおける入力遅延の解消のための入力予測と分散処理の利用(土居 大輝)
現在,ゲーム産業ではクラウドゲームが注目されている.クラウドゲームとはクライアント側の処理が必要最低限に抑えられており,ゲーム内の演算処理やレンダリングなどは全てサーバで行う.これにより,ハードウェアの互換性を考える必要がなくなり,バグへの対応やバージョンのアップデートなども容易になる.しかし,クラウドゲームではネットワークを経由して処理を行うためネットワーク遅延の影響を受けやすい.その中でも入力遅延は,ユーザ体験のリアルタイム性において非常に重要な問題となっている.ユーザが入力して画面に反映されるまでの時間が60ms程度から遅延を感じ始め,100msを超すと不快になると言われている.遅延の軽減を目的とした先行研究に,ユーザの入力傾向を学習することによって直近の入力から未来を予測するという手法がある.この手法では突発的なユーザの入力に対しては,起こりうる全状態を描画して事前に送信している.全状態を描画して送信するのは通信状況や状態数によっては大幅な遅延に繋がりかねない.そこで本研究では,ユーザの入力の予測を一つに絞るのではなく,分散コンピューティングでその求めた割合に応じて計算するコンピュータの台数を変化させて確率の低い入力に対しても対応できるようにする.