2021年12月11日の第133回月例発表会(B4)において,佐々木 雄大(B4),西川 瑳亮(B4),樫原 侑磨(B4),国本 典晟(B4),齊藤 慶一(B4),宮脇 弘充(B4),鈴木 彩門(B4),土居 大輝(B4)の8名が以下のタイトルで発表を行いました.
Webコンテンツに応じたHTTPプロトコル切替によるページ読込み時間削減手法 (佐々木 雄大)
現在,インターネットの利用者は40億人を超え,世界人口の過半数がインターネットを利用している.特にス マートフォンの普及によるモバイルネットワークは急速に拡大が進んでおり,全世界で63億以上のモバイル回線契 約がされている.モバイルネットワークは場所に依らず,移動しながら利用できるという利点がある一方で,場所や天候などにより通信遅延やパケットロスが生じ,通信品質が悪化することもある.
通信品質の悪化によるWebページ読込み時間の増加は,ユーザ満足度に影響し,ユーザは読込み速度の遅いWebページから離れる傾向にある.
こういった状況を踏まえ,Webページ読込み時間を削減するために開発され,現在IETFによって標準化が進められているのがQUICである.QUICでは,これまでTCP上で行われていた輻輳制御や再送処理が,UDP上で実装されている.これにより,TCPよりも遥かに大きな柔軟性が得られるほか,実装をアプリケーション内で行えるため,プ ロトコル実装のアップデートがOSのアップデートに依存しないなどの利点がある.
しかし,高い通信帯域幅かつ非常に低い遅延及びパケットロス率となる高品質ネットワークでは,QUICがTCP よ りも低い性能を示すことがあると指摘されている.これは,QUICがアプリケーションとして実装されているため,カーネルレベルで実装されているTCPに比べ,メモリやCPUなどが非効率であるからである.また,Webペー ジが多数の小さなサイズのサブリソースで構成されている場合,QUICが大きい利点を提供しないことも指摘されている.
ビーコンレンジ署名によるV2X通信なりすまし検知手法 (西川 瑳亮)
近年, ITS(Intelligent Transport Systems)の分野において,自動運転や車車間通信の研究が盛んに行われている.車両は,車車間通信(V2V通信),路車間通信(V2I通信),歩行者の所持する端末との通信(V2P 通信),携帯回線を利用したクラウドとの通信(V2C通信)を行うことができる.これらを総じてV2X(Vehicle To Everything)通信という.車両がV2X通信を行うことで,クラウドは様々なデータを収集することができ,どの車がどの場所で事故を起こしたなどの車両情報・道路情報の管理から,ガソリン残量やタイヤの空気圧の状況によって警告する運転支援システムといった様々なシステムやサービスを提供することがで
きる.
一方で,クラウドを利用したシステムにおいて,クラウドに対する不正なデータ転送がシステムに大きな影響を与える.近年ではクラウドに対する不正なデータの転送やクラッキング行為が増加傾向にあり,クラウドを利用した安全運転支援サービスに対する攻撃も脅威となる.そういった攻撃の一つに車両がクラウドに走行データや位置データを偽装した不正なデータを送信する行為がある.なお,本論文において走行データや位置データを偽装した不正データを送信する行為を「なりすまし」と定義する.位置情報を偽装し,事故車を装って渋滞を巻き起こすなど,なりすまし攻撃はITSにとって脅威であり,対策が必要である.
本研究では,車両の位置データと道路に設置しているビーコンの署名されたタイムスタンプ付きのデータを同送することにより,特定の時間にビーコン通信範囲(レンジ)内に存在したことを証明するといったビーコンレンジ署名という考えを用いて,車両のなりすましを検知することを目的とする.
再送タイムアウトを利用した低レートDoS攻撃対策の検討 (樫原 侑磨)
世界でインターネットワークを利用する際にサービス妨害(Denial of Service)攻撃がサイバー攻撃の中でも脅威である.中でも一般的なDoS攻撃よりも平均通信量が少なく,TCPの再送タイムアウト機構を悪用した低レート(Low-rate)の攻撃,LDoS攻撃がルーター等でモニター等で検出が困難な点で着目されている.
通常の通信では通信応答がRTT(Round Trip Time,数十ミリ秒)で帰ってくる.輻輳などで応答がない場合は再送タイムアウト(RTO:Retransmission Timeout)を待った後,パケットの再送信を行う.LDoS攻撃はRTT間で続く瞬間的な大量通信をRTOに基づいた値を用いて一定周期で送り続け,TCPのスループットを低下させる.ここでLDoS攻撃対策として細井らはRTOの工夫による実現が望ましいとし,連続して再送する場合のRTO が
とRFC6298で整数倍で規定されているのを
とし,uに有理数を選ぶことで実際に攻撃緩和効果が認められた.がしかし,十分なスループットを確保できない結果に終わっている.
そこで本研究では,新しく定義するRTOLDoS攻撃を緩和し,かつスループットを一定値確保するか否かの検証・考察を行う.
ホームネットワークにおけるデータ特性を考慮したSDNによる優先度制御手法 (国本 典晟)
近年,画像や動画などの大容量データの需要が急速に拡大し,インターネットの多くの帯域を占めるようになっている.また,IoTデバイスの増加とスマートホームの技術の進歩に伴い,ホームネットワークに接続するデバイスは増加し,ホームネットワークの内部および外部のインターネットの帯域の使用が増えることが予想される.一方,現在のインターネットサービスプロバイダは,各家庭の総帯域を契約した帯域の範囲内で制御しており,要求される帯域が契約した帯域を上回る場合,特定アプリケーションやユーザの帯域を制御することで,ネットワーク全体の品質確保に努めている.しかし,そのような帯域制御は多様なサービスやデータの特性を十分に考慮したものではないため,インターネットの需要の拡大に伴う帯域の逼迫に対応できず,ホームネットワークの通信のQoS 要件を著しく損なう可能性が危惧されている.
この問題の解決を目指して,ホームネットワークのQoS要件を満たすよう,SDNを用いて通信制御を行うネットワークアーキテクチャの研究が行われている.しかし,限られた帯域内で全てのホームネットワークのサービスのQoS要件を満たすことは不可能であるため,サービスに優先度を設けて通信制御を行う必要がある.本研究では,ホームネットワークの通信のデータ特性を考慮し,サービスの優先度制御を行う手法を提案する.
車両密度に基づくエッジサーバ利用によるダイナミックマップシステムの負荷分散方式の検討 (齊藤 慶一)
自動運転社会の実現に向けた研究開発が進んでおり,高度な自動運転システムを実現するための中核技術としてダイナミックマップシステムが着目されている.通常ダイナミックマップシステムはクラウドを使用し,すべてのデータをクラウドに集約し,車両は直接クラウドとやりとりを行う.しかし,上記のやり取りのデータ量は膨大で,かつ遅延許容時間内でやりとりをする必要がある.先行研究では,車載システムなどの組み込み環境・通信基地局などのエッジ環境・データセンターのクラウド環境の三階層に跨った通信連携を行う分散データベースシステムとして実現されている.しかし,先行研究では,DB が独立しており,負荷分散の機能なども存在しないために,都市部の交通渋滞などで一つのエッジサーバに処理負荷が集中するケースで,エッジサーバ間で処理負荷が偏った際の拡張性が低く,サービス提供に支障をきたす可能性がある.
本研究では,渋滞などで特定のエッジサーバの管理エリアに車両が集中するケースにおいて,エッジサーバ間での処理負荷の偏りの解消と拡張性の向上を目的とし,管理エリアの一部をエッジサーバ間で委譲し合うダイナミックマップシステムの負荷分散方式を提案する.
コネクテッドカーと通信非対応車両の混在状況における高速道路合流時の効率の検討 (宮脇 弘充)
近年,自動運転技術に関する研究が活発に行われている.今後,自動運転車の研究開発が進むに伴い,自動運
転車は徐々に普及が進んでいくと考えられる.さらに,V2X(Vehicle-to-everything)通信を利用して,車載センサの死角や周辺車両の情報を得られるコネクテッドカーがある.コネクテッドカーと自動運転技術を併用することにより,現在に比べ効率的な交通になることが期待されている.
しかしながら,コネクテッドカーが実用化されたとしても,市場への普及が進むまでには時間がかかり,通信に対応していない車両(通信非対応車両)とコネクテッドカーが混在する状況が生じると予想される.このような状況においてコネクテッドカーは,コネクテッドカー自身の情報だけでなく,通信非対応車両の情報も他のコネクテッドカーと共有する必要がある.
そこで本研究では,コネクテッドカーと通信非対応車両が混在する高速道路の合流部において,合流車線を走行するコネクテッドカーが本線に合流する手法を提案し,シミュレーションによって効率を検討する.
複数人によるAR 空間文字情報共有時の向き補正手法 (鈴木 彩門)
近年,AR技術は,スマートフォンでも手軽に扱えるようになり,一般的にも身近なものとなってきている.この
ようなAR技術の広がりによって,空間を自由に使うことのできる時代が到来することが期待されている.しかし,従来のARでは,コンテンツを他のユーザと共有するというインタラクティブ性が不足していたため,ここ数年ではARの複数人共有の技術が提案され始めている.実用例は未だ少ないが,ミーティングなどのコミュニケーションや,ゲーム等において,活用が期待されている.その際,文字情報をARオブジェクトに持たせて伝達することがある.このような例では,ユーザ同士が対面した位置にいる場合に,表示された内容を認識することができないという問題が起きると考えられる.
そこで本研究では,現実空間の任意の場所にAR表示したオブジェクトの持っている文字情報をAR空間文字情報と定義し,これを複数人で共有した時に,文字が各ユーザの方向を向くようにオブジェクトの向きを補正する手法を提案する.
クラウドゲームにおけるネットワーク遅延低減のための入力予測と分散処理 (土居 大輝)
現在,ゲーム産業ではクラウドゲームが注目されている.クラウドゲームとはクライアント側の処理が必要最低限に抑えられており,ゲーム内の演算処理やレンダリングなどは全てサーバで行う.これにより,ハードウェアの互換性を考える必要がなくなり,バグへの対応やバージョンのアップデートなども容易になる.
しかし,クラウドゲームではネットワークを経由して処理を行うためネットワーク遅延の影響を受けやすい.そのでも入力遅延は,ユーザ体験のリアルタイム性において非常に重要な問題となっている.ユーザが入力して画面に反映されるまでの時間が60ms 程度から遅延を感じ始め,100msを超すと不快になると言われている.
遅延の軽減を目的とした先行研究に,ユーザの入力傾向を学習することによって直近の入力から未来を予測するという手法がある.この手法では突発的なユーザの入力に対しては,起こりうる全状態を描画して事前に送信している.全状態を描画して送信するのは通信状況や状態数によっては大幅な遅延に繋がりかねない.
そこで本研究では,ユーザの入力の予測を一つに絞るのではなく,分散コンピューティングでその求めた割合に応じて計算するコンピュータの台数を変化させて確率の低い入力に対しても対応できるようにする.