2024年11月9日の第162回月例発表会において,坂本 拓馬(M2),山崎 慎也(M2),森田 暉之(M2),東田 悠希(M2),松下 翔太(M2),松村 学(M2),黄 一凡(M2)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.
製造者通信ポリシーを利用した SDN による IoT セキュリティシステム(坂本 拓馬)
近年,IoT(Internet of Things) の発展により,多くのモノがインターネットに接続され利便性が高まる一方で,セキュリティ上のリスクも高まっている.IoT デバイスは,最低限の性能を発揮する CPU やメモリしか保持していないことが多く,適用できる機能が限られている.そのため,ログ出力や暗号化などのセキュリティ対策を IoT デバイスに直接適用することは困難である.また,ホームネットワークのユーザは一般的にセキュリティに関する知識を持っておらず,ユーザ自身でセキュリティの設定を行うことは困難である.そこで,ユーザの負担を減らしつつ,セキュリティ対策を施す手法として,MUD(Manufacturing Usage Description) が提案されている.MUD では IoT デバイスの製造元が通信ポリシーを記述した MUD ファイルを作成し,その通信ポリシーに従って通信制御を行う.実際に,SDN(Software Defined Networking)を用いて中小規模のネットワークに MUD を適用する方式が提案されている.しかし,MUD によるセキュリティ対策は,LAN 環境において,攻撃によって侵害された IoT デバイスからの攻撃,つまりローカル環境内部からの攻撃には弱いといった問題がある.そこで本研究では,SDN を用いてホームネットワークに MUD を適用し,不正侵入検知システムによってローカル環境内の攻撃にも対応可能なシステムを提案する.また,SDN を用いて,侵害されたデバイスをネットワークから切り離し,攻撃被害の最小化を行うことも検討する.
車両の走行環境を考慮した協調認識メッセージにおける冗長性緩和手法(山崎 慎也)
近年,車両の周辺環境の認識を向上させる技術としてCPS(Collective Perception Service)に関する研究が盛んに行われている.車両と路側機がセンサで検知したオブジェクトの座標,速度,加速度,方向などのオブジェクト情報を V2X(Vehicle-to-Everything)通信を用いて他の車両や路側機と共有することで,車両の周辺環境の認識が向上し,交通の安全性の向上が期待されている.現在,ETSI(European Telecommunications Standards Institute)は CPSの標準化に取り組んでおり,車両と路側機がセンサで検知したオブジェクト情報を送信するためのメッセージである CPM(Collective Perception Message)の規格を定めている.車両がセンサで検知したオブジェクト情報と以前に受信した CPM に含まれるオブジェクト情報を CPMに含みブロードキャストすることでオブジェクト情報を共有する.
しかし,複数の車両が CPM を定期的にブロードキャストすることにより,冗長なオブジェクト情報を複数回共有する可能性があるため,通信帯域が逼迫する恐れがある.通信帯域が逼迫すると車両が必要とする CPM を受信することができなくなる可能性があり,車両の周辺環境の認識の低下に繋がる.
この問題に対して,ETSI は冗長なオブジェクト情報を削除することで CPM のメッセージサイズを縮小する手法である. RMR(Redundancy Mitigation Rule)を複数提案している.しかし,提案されたそれぞれの RMR によってオブジェクト情報の冗長性の評価が異なるため,車両台数や車両の速度,加速度などによって CPS の性能が低下する恐れがある.また,提案された RMR では歩行者を考慮していないため,歩行者に関するオブジェクト情報が CPM から削除される可能性があり,歩行者の安全を確保できない恐れがある.
本研究では,提案された 3 つの RMR を組み合わせて冗長性が大きなオブジェクト情報を抽出し削除することで,メッセージサイズを削減し通信帯域の逼迫を低減し周辺車両の認識を向上させる手法を提案する.
協調型自動運転におけるフリースペース情報共有の有効性(森田 暉之)
近年,路側センサを備えた路側機や周辺の他車両との間で通信を介して情報共有を行い,効率的な走行を実現する協調型自動運転が注目を集めている.自車両の車載センサでは見通せない領域の情報を取得することで,車載センサの検知範囲を超えた周辺環境の認識が可能となる.自車両の車載センサの情報を用いて自動運転制御を行う,自律型自動運転も協調型自動運転の一部である.
協調型自動運転では,センサで検知された物標は物標情報として共有される.ここで,物標は車両や歩行者,障害物等を指し,物標情報は物標の大きさや位置座標,速度を表すベクトル,固有の ID 等で構成される動的情報である.物標情報により,車両は周辺環境に存在する物標との位置関係や走行可能な領域を把握できる.しかし,すべての物標に関して物標情報を取得できる保証はなく,実際に物標が存在するにもかかわらず物標情報を取得できないときも,物標に占有されていない領域の安全性は一様とみなされる.また,物標情報の出力はセンサの検知範囲で物標を検知した際に行われるため,物標が存在しないことによる無出力と,物標の検知漏れによる無出力を判別できない.つまり,変化の激しい複雑な道路環境には,物標情報のみでは回避できない,潜在的な危険性がある.
本研究では,道路上及びその周辺を対象に物標が存在しないと判定された領域をフリースペースと定義し,該当する領域をフリースペース情報として,物標情報と併せて共有することを検討する.シミュレーション実験を行って,協調型自動運転においてフリースペース情報を共有することの有効性を示す.
局所性鋭敏型ハッシュを利用したコネクティッドカーのプライバシ保護方式(東田 悠希)
近年,安全運転支援や協調型自動運転において,車両とあらゆるものが通信を行う V2X (Vehicle to Everything) 通信に関する研究が盛んに行われている.V2X 通信では,車両は自車両の速度や位置情報等の車両情報,そして受信者が送信者を特定するための識別子を含んだメッセージを周囲の車両や路側機などに送信することで,交通の安全や交通流を効率化するアプリケーションに活用することが期待されている.しかし,メッセージは復号化に時間を要すると遅延が増えて安全性に影響を与えるため暗号化は推奨されておらず,平文で送信される車両情報が含まれている.そのため,悪意のある攻撃者がメッセージを盗聴すると,攻撃者はメッセージに含まれる識別子から攻撃対象の車両を特定し,車両の位置情報を追跡することが出来る.これにより,ドライバの行動や自宅等のプライバシが侵害される恐れがある.
この問題に対し,プライバシ保護のため,仮名を用いた方式が検討されている.この方式では,車両ごとに割り当てられる固定の識別子の代わりに,仮名と呼ばれる一時的な識別子を割り当て,仮名を様々な条件の基繰り返し変更することで,識別子を基に攻撃対象の車両を特定していた攻撃者を混乱させることが出来る.しかし,仮名を用いる方式にもリンク攻撃と呼ばれる,仮名変更後でも仮名変更前の車両とリンクして攻撃対象の車両を継続して追跡出来る攻撃が存在する.
そこで本研究では,より類似する車両情報を持つ車両群を局所性鋭敏型ハッシュにより抽出し,それらの車両で協調して仮名を変更することで,リンク攻撃を防止し,高いプライバシの保護を可能にする方式を提案する.
協調型自動運転のための路側センサによる占有格子地図を用いたオブジェクト移動予測手法(松下 翔太)
近年,車載センサや路側センサから得られたセンサ情報を通信技術を用いて共有し,高度な自動運転を実現する協調型自動運転が検討されている.協調型自動運転では複数のセンサ情報を統合することで,車両の死角となる領域に存在する歩行者や車両などのオブジェクトの検知が可能である.センサ情報の統合には,センサ間で共通の格子状の地図である占有格子地図を用いる手法が検討されている.しかし,占有格子地図は各格子(以下,セル)が独立してオブジェクトの存在確率を計算するため,セル間でオブジェクトが移動することを考慮していない.そのため,車両の死角からオブジェクトが移動してきた場合,車両の急停止や急減速が発生し,走行の安全性が低下する問題がある.
この問題に対し,自律型自動運転を想定し,車載の LiDAR センサ(Light Detection And Ranging)を用いて占有格子地図を算出し,オブジェクトの移動を予測する研究が行われている.しかし,占有格子地図の算出に路側センサを用いる場合は,車載センサと比較して高所に設置されることやセンサが固定であることにより,センサが検知できない領域が増加し,道路環境を正しく認識できないという問題がある.
そこで本研究では,路側センサとして LiDAR センサを使用し,路側センサが検知できない領域の大きさを考慮した占有格子地図の推定手法を検討する.そして,推定された占有格子地図の時系列データを用いて,機械学習によりオブジェクトの移動を予測する手法を提案する.
自動運転と手動運転の混在環境における時空間グリッド予約による道路合流調停手法(松村 学)
近年、協調型自動運転車両に関する研究が進められている.協調型自動運転では,V2V(Vehicle-to-Vehicle) 通信やV2I(Vehicle-to-Infrastructure)通信を用いて,自車両の情報を基に走行経路を事前に決定することで自動運転車同士が協調的に走行することが可能となる.
協調型自動運転の走行調停手法として,ダイナミックマップによる時空間グリッド予約の利用が検討されている.時空間グリッド予約の概要を示す.時間と道路空間を区切って作成したセルの集合体を時空間グリッドとして定義し,車両は走行したい時空間グリッドを事前に予約することで車両走行の調停をとる.
しかし,時空間グリッド予約による走行調停手法は,すべての車両が自動運転車両であることを前提としている.自動運転車両の完全な普及は長期にわたることが想定されているため,通信機能を持たない従来の手動運転車両を考慮した自動運転車両の制御手法の提案が必須である.
本研究では,協調型自動運転車両と通信機能を持たない手動運転車両が混在する環境において,時空間グリッド予約による道路合流調停手法を提案する.手動運転車両の走行経路を予測した時空間グリッド予約を行うことで,手動運転車両との混在環境を考慮した協調型自動運転車両の時空間グリッド予約を実現する.協調型自動運転車両を制御することで効率的かつ安全な合流調停を目指す.
Graph Neural Networks for Dynamic Resource Allocation in V2X Communications(黄 一凡)
V2X, or "vehicle to everything," refers to the exchange of information between a vehicle and its external environment, including V2N (Vehicle-to-Network), V2V (Vehicle-to-Vehicle), V2I (Vehicle-to-Infrastructure), and V2P (Vehicle-to-Pedestrian) communications within intelligent connected systems. However, V2X communications also present new challenges for wireless network resource management. Traditional resource allocation methods often struggle to meet the rapidly changing communication conditions in V2X communication quickly and efficiently. Therefore, a method needs to be designed to ensure stable communication quality during information exchange.
To address quality issues in V2X communication, I have proposed a new network slicing framework for dynamic resource management in V2X systems. Leveraging Graph Neural Networks (GNNs), this approach adapts more effectively to changing conditions while ensuring the timely satisfaction of diverse service requirements and maintaining the stability of V2X communication.