2021年6月12日の第128回月例発表会(M2)において,中田 輝(M2),中井 綾一(M2),奥西 理貴(M2),田中 佳輝(M2),細野 航平(M2),東山 紘樹(M2),林 聡一郎 (M2)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.
時空間グリッド予約を実現する VID を用いたマイクロロードプライシング(中田 輝)
近年,静的な地図上に動的な情報を重ね合わせた仮想的なデータベースであるダイナミックマップに関する研究が進められており,協調型自動運転車両の走行調停において重要な役割を果たすと期待されている.その応用として,このダイナミックマップを利用することによって,自動運転車がこれから走行をする経路の時間と空間を事前に予約し,他の車両を排除することでよりスムーズな走行を可能にする時空間グリッド予約という考え方を確立した.この際,ダイナミックマップでの時空間グリッド予約に料金徴収による優先度を設けるために,道路をグリッドに分割しそれぞれに値段を付け仮想通貨によって支払いを行うマイクロロードプライシングという方式を考え,その実現性についての検証を行った.その結果,交差点などの限定的な範囲での実現可能性が示され,ガソリン税に代わる新たな収入源の確保としても期待できることが分かった.
本研究ではこれを発展させ,予約情報の管理に VID を用いることで予約料金の後納を可能にする.これにより,提案するシステムのスループットを向上させ,より広範囲での実現を目指す.
V2X 通信における仮想車両を用いた動的仮名変更手法の検討(中井 綾一)
近年,V2X(Vehicle to Everything) 通信に関しての研究が盛んに行われている.この V2X 通信により,車両の事故防止や交通渋滞の削減につながることが期待されている.しかし,V2X 通信を用いたアプリケーションでは,車両の位置情報や個人情報を利用するため,プライバシ保護が重要な課題である.
例えば,攻撃者に位置情報を含む V2X 通信メッセージを盗聴され続けたとすると,攻撃者は車両の位置情報を追跡することができ,所有者の行動パターンを容易に把握することが可能となる.この課題を解決する有効なプライバシ保護手法として,仮名を用いた手法が知られている.仮名とは,特定の車両の位置情報などを追跡できないようにするため,V2X 通信機器に割り当てられる仮の識別子である.
本研究では,車両密度を閾値として,仮名変更方式を動的に使い分ける手法を提案する.そして,匿名性と安全性,交通流について評価を行う,
MPQUIC を用いた通信経路喪失によるパケットロス削減手法(奥西 理貴)
近年のビデオストリーミングなどの大容量コンテンツの普及に伴い,必要な帯域幅が増加している.スマートフォンやタブレットといった端末においては,LTE と無線 LAN といった複数の通信経路を併用する帯域集約によって,利用できる帯域幅を増加させる利用形態が想定される.帯域集約をトランスポート層で実現する技術として,複数の通信経路に TCP コネクションを確立する Multipath TCP(MPTCP) が挙げられる.この MPTCP によって,端末は LTE と無線 LAN を併用した通信を実現できる.一方で,端末の移動性と無線 LAN の通信範囲を考慮すると,無線 LAN での接続は一時的なものとなり,通信経路の喪失が頻繁に起こることが想定される.しかし MPTCP の抱え る本質的な課題から,通信経路の喪失時に発生するパケットロスを防ぐことができない.
本研究では,MPTCP に代わって Multipath QUIC(MPQUIC) を用い,喪失が予想される通信経路でのデータ送出量を適切に調整することによって,通信経路の喪失に伴うパケットロスを削減する手法を提案する.
走行情報と顔方向を用いたドライバーの歩行者認識の推定(田中 佳輝)
近年,高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)の分野において研究開発が活発に行われ,様々な運転支援システムが普及してきている.その中の1つに衝突回避支援システムがあり,ドライバーに対して警報や自動ブレーキなどの制御を行うことで,ドライバーの安全運転を支援するというものである.このシステムは,車両に搭載されたカメラやミリ波レーダーなどのセンサを利用し,車両や歩行者などの対象物との距離や相対速度をセンシングすることで実現される.このようなシステムはすでに実用化されており,交通事故を未然に防ぐことやその被害を軽減することに貢献している.また,車車間通信や歩車間通信により,周辺の車両や歩行者との位置情報や速度情報などの共有が可能となり,それらの情報を利用した協調型運転支援システムの研究が行われている.このようなシステムでは,カメラやミリ波レーダーなどのセンサによるセンシングのみでは得られない情報を利用した運転支援が可能となり,ドライバーにとって,より効果の高い運転支援が実現できると期待されている.
しかし,現在検討されている協調型運転支援システムは,ドライバーの周辺環境に対する認識状態を考慮した運転支援を行っていない.例えば,周辺に存在するすべての歩行者を気付かせるような警告を行った場合,ドライバーが既に認識している歩行者に対しても警告することになり,慣れによる効果の低下や煩わしさといった問題が発生する.そのため,ドライバーの歩行者に対する認識状態を推定することができれば,効果的な情報提供の手法を検討することが可能となる.
ダイナミックマップシステムにおける複数エッジサーバへの効率的アクセス方式の検討(細野 航平)
ダイナミックマップは,高精度道路地図とセンサ情報に対して,収集・統合・検索など,データ管理のために必要となる機能を提供し,交通サービスを提供するアプリケーションの開発・実行がより柔軟かつ容易に行うことが可能となる.ダイナミックマップの動的情報として,一般に 100 ミリ秒周期で車両から送信されるセンサ情報などが管理される.これに基づいて安全運転支援や協調型自動運転を実現するための交通安全への影響度が高いアプリケーションが動作するため,低遅延での情報処理が求められる.通常,ダイナミックマップシステムはインターネット上のクラウドサーバの利用を想定するが,クラウドサーバに膨大な車両からのデータが集約されると処理負荷や通信遅延の原因となり,スケーラビリティが問題になると考えられる.そこで,クラウドサーバと車両の間にエッジサーバを配置することで,処理負荷の分散や通信遅延の軽減が期待されている.
車両から送信されたデータを,地理的に分散配置されたエッジサーバで逐次処理し,処理結果を車両へと直接通知することでリアルタイム性の向上が期待できる.しかし,ダイナミックマップでは交通安全への影響度が高いアプリケーションを扱うため,エッジサーバは車両データをリアルタイムに処理するだけでなく,各エッジサーバが扱うアプリケーションにおいて,対象となるエリア内の全ての車両データを集約する必要がある.また,車両から送信されたデータが意図しないエッジサーバに受信された場合は適切なエッジサーバにデータを転送する必要がある.ETSI が Multi-access Edge Computing(MEC) について検討しており,エッジサーバを携帯電話基地局の周辺に配置するモデルが有力である.本研究では,エッジサーバ・車両からなるダイナミックマップシステムにおいて,効率的に通信を行うことができるアクセス方式を提案する.
時空間グリッド予約システムの道路合流調停への応用検討(東山 紘樹)
近年,自動運転に関する研究が盛んにおこなわれている.車両が自らのセンサで周囲の状況を把握し,自律的に自動走行を行うものに加えて,通信を用いて他の車両と情報を共有して協調的に走行するコネクテッドカー(Connected Autonomous Vehicles)についても検討が進められている.
コネクテッドカーが情報を共有する仕組みの1つとして,ダイナミックマップがある.ダイナミックマップは車両情報や道路情報を情報の更新頻度によって階層化して管理するシステムである.これにより,コネクテッドカーあるいは走行調停システムは周辺環境の変化に対応した動的な地図を取得可能となり,リアルタイムかつ高精度に周辺環境を認知することが可能となる.
このダイナミックマップを応用した走行調停手法として時空間グリッド予約システムがある.時間と道路上の空間をグリッドに分割し,ダイナミックマップ上で管理し,各コネクテッドカーが事前に特定の時刻に通過予定の地点を予約し,予約情報に基づいた調停・走行を行うものである.先行研究ではこの基礎となるシステムを単一交差点を想定して構築し,旅行時間や計算量において考察が行われ,他の走行調停手法に比べて有用である可能性を示した.本研究では,このシステムを発展させ,高速道路等の合流部での予約調停について検討する.
車両走行環境を考慮した HUD を用いた死角の運転支援(林 聡一郎)
現在,自動車同士の事故が全体の事故の約 9 割を占めている.自動車同士の事故の中でも,出会い頭の衝突が約 3 割,右折時の衝突が 1 割である.この出会い頭の衝突と右折時の衝突の原因の 1 つとして死角の存在が考えられる.
最近では,様々な事故を回避するために多様な運転支援方法が考案されている.例えば,ドライバに警告を表示するディスプレイや警告方法,AR 表示について検討されている.
警告を表示するディスプレイの種類については,自動車の前方ガラスに AR 表示する HUD(Head Up Display) や車内のディスプレイに表示する HDD(Head Down Display) が存在する.警告方法としては,視覚的警告と聴覚的警告,視覚と聴覚を組み合わせた警告が存在する.視覚的警告として提示される AR 表示については,HUD を用いて自動車の予測進路を提示する AR 表示が存在する.