NISLAB

第139回月例発表会(M1)

2022-07-09

2022年7月9日の第139回月例発表会(M1)において,西川 瑳亮(M1),宮脇 弘充(M1),国本 典晟(M1),佐々木 雄大(M1),土居 大輝(M1),平光 樹(M1),鈴木 彩門(M1)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.

CRL のリーダ車両への配布による仮名検証手法(西川 瑳亮)

20220709 SNishikawa

近年,V2X(VehicletoEverything)通信に関する研究が盛んに行われている.このV2X通信は車両の事故防止や渋滞緩和など、交通の安全性や効率を向上させることが期待されている.一方で,車両の位置,速度,方向などを,自車両のIDと紐つけて近隣の車両にメッセージでやりとりするため,追跡が容易というセキュリティやプライバシ面の問題がある。その解決策の一つとして,仮名と呼ばれる一定間隔で何回も変更される車両IDを与え,それを用いて周囲の車両と情報をやり取りすることで,追跡を困難にする手法が検討されている.この手法では,仮名認証局が,不正な振る舞いをした車両や,機器のトラブル等によって正常な動作が期待できなくなった車両の仮名を失効させる.その失効させた車両のIDや全ての仮名を他車両に周知させるためにCRL(CertificateRevocationList)と呼ばれる失効した仮名のリストを配布する必要がある.しかし,この仮名変更方式では,失効した車両が増加するとCRLのデータサイズが大きくなり,CRL配布によって通信帯域が逼迫され、他のアプリケーションの通信に影響を与えてしまう課題がある.そのため,少ないネットワークリソースでCRLを配布し,失効している仮名を把握する手法を検討する必要がある.

自動運転における MRM 作動情報を用いた安全性向上手法(宮脇 弘充)

20220709 HMiyawaki

近年,自動運転技術に関する研究が活発に行われており,レベル3までの自動運転車が実用化されている.レベル3以上の自動運転車両には,車両の性能等に応じてODD(運行設計領域)を定めるよう求められている.ODDには主に3つの条件で構成される.道路の種別や車線数を規定する道路条件,都市部か山間部かなどを規定する地理条件,天候や夜間制限などを規定する環境条件である.このようにODDは自動運転システムが機能する走行環境や運用方法を制限することで,防止可能な事故を生じないようにしている.特に,レベル3の自動運転車では,設定されたODDの範囲外となった場合や自動運転の継続が困難であると判断した場合には,ドライバーに対して運転権限の委譲を行い,システムからドライバーに運転が引き継がれない場合には,車両を自動で安全に停止させるMRM(MinimumRiskManeuver)を作動させるよう求められている.また,V2X(Vehicle-to-everything)通信を利用して,車載センサの死角や周辺車両の情報を得られる車両もあり,V2V通信と自動運転技術を併用することにより,現在に比べ安全で効率的な交通になることが期待されている.そこで,本研究では全ての車両が通信機能を備えたレベル3の自動運転車である環境において,MRM作動時に周囲の車両に対して,MRM作動を通達する手法を提案し,シミュレーションによって効率と安全性を検討する.

SDN を利用した IoV 実現のための道路を考慮した通信経路選択手法(国本 典晟)

20220709 TKunimoto

車両間通信や車両と道路インフラとの通信により効率的な交通を実現するシステムであるIoV(InternetofVehicles)は,道路上の全ての車両の高い移動性を常に考慮する必要がある.また,効率的な通信経路を設定するプロトコルは,車両の高い移動性や密度,断続的な接続性や複数の通信技術を考慮する必要がある.これらの理由から,IoVのデータ伝送のための効率的な通信経路を設定するプロトコルの設計は困難である.IoVの実現のため,ネットワーク機器の転送機能と制御機能を分離する技術の総称であるSoftware-DefinedNet-working(SDN)を用いて,規模の大きい異種ネットワークを論理的に集中管理する研究が行われている.SDNコントローラは車両からネットワークトポロジ情報を取得し,信頼性の高い経路を計算する.しかし,車両の高い移動性から,SDNコントローラが頻繁に通信経路の再計算を行い,再度新しい通信経路を車両に通知するオーバヘッドが問題となる.本研究では,通信経路の計算を行うSDNコントローラと車両の間にエッジコントローラを設置し,一定時間ごとに必要な情報のみをSDNコントローラに送信することでSDNコントローラのオーバヘッドを削減する.また,道路をセグメントに分割し,各セグメントに新しく進入した車両を同道路セグメント上の車両へとデータを伝送する役割を担うゲートウェイ車両とすることで,通信経路の喪失が少なく,SDNコントローラの経路の計算時間およびSDNコントローラと車両間の通信のオーバヘッドを削減する手法を提案する.

ネットワーク環境に応じた動的スケジューリング方式による Web ページ読込み時間削減手法(佐々木 雄大)

20220709 YSasaki

近年,スマートフォンなどの普及により,インターネットの利用率は増加している.一方で,通信品質の悪化などによるWebページ読込み時間の増加は,ユーザ満足度に影響し,ユーザは読込み速度の遅いWebページから離れる傾向にある.こうした状況を踏まえ,Webページ読込み時間を削減するために開発され,現在IETFによって標準化が進められているのがQUICである.HTTP/3は,トランスポート層にQUICを採用することで,従来のHTTP/2よりも高速な通信を実現する.その要因の一つとして,QUICではUDP上にストリームの多重化を再実装しており,各ストリームでのパケットロスが他のストリームに影響しない仕様となっているため,トランスポート層でのHoL(Head-of-Line)ブロッキングを解消している.また,各ストリームはHTTPリソースの優先順位付けによって管理しており,HTTP/3では従来のHTTP/2よりも単純かつ柔軟性の高いEPS(ExtensiblePrioritizationScheme)と呼ばれる優先順位付け方式が再設計された.しかし,HTTP/3の最適な優先順位付け方式は確立されておらず,例えば,高い遅延かつパケットロス率となるネットワークではラウンドロビン方式のパフォーマンスが高くなることがわかっている.そこで本研究では,HTTP/3での通信において,ネットワーク環境に応じて動的にスケジューリング方式を選択することで,ページ読込み時間を削減する手法を提案する.

入力予測と分散処理の MCG への適用によるネットワーク遅延低減手法(土居 大輝)

20220709 TDoi

現在,ゲーム産業ではクラウドゲームが注目されている.その中でも特にMCG(MultiplayerCloudGame)が人気であり,約56%のプレイヤーが他の人と一緒にプレイすることを好んでいる.クラウドゲームではクライアント側の処理が必要最低限に抑えられており,ゲーム内の演算処理やレンダリングは全てサーバで行われる.これによって,クライアントは端末の性能を気にすることなくプレイ可能で,サーバの強力なGPUを用いた高画質なゲーム画面でプレイすることも可能になる.また,開発者側にもいくつか利点がある.一方で,クラウドゲームはネットワークを経由して処理を行うため,サーバとユーザ間でデータの往復にかかる時間RTT(Round-TripTime)の影響を受ける.特にMCGの場合では,プレイヤー間の公平性に関わって来るプレイヤー間遅延も問題となる.本研究では,クラウドゲームにおけるネットワーク遅延を改善するために用いられる入力予測に着目する.入力予測を行う際に,一つの状態を予測するのではなく複数の状態を予測することで,予測が大きく外れた場合でも,予測をやり直さずに対処可能な手法を提案する.

走行環境を考慮したフリースペース危険度の段階的可視化(平光 樹)

20220709 THiramitsu

近年,ITS(高度交通システム)による安全運転支援の研究が行われている.ITSにより,路側インフラ設備や車と通信を行うことで運転手に運転の危険性を伝え,事故の防止につなげる取り組みが広まりつつある.しかし,未だに交差点など見通しの悪い道路状況においては減少傾向にはあるものの事故は発生している.そのため,ITSにより運転手により効果的に危険度を伝え,安全な走行を促すシステムが必要である.本研究では,車載センサ,HUD(HeadUpDisplay),車々間通信によって,死角のある交差点を右折する際の危険度を死角にある車両のフリースペースの状態から判断し,運転手にAR表示することで安全に右折することを可能にする手法を提案する.

OpenPose を用いた設置型仮想テンキーの実装(鈴木 彩門)

20220709 SSuzuki

キーボードは,長い間,情報機器の入力装置として広く利用されており,今後も廃れずに使われ続けていくと予測されている.公共の場では,タッチパネル式の入力も主流になりつつあるが,現在でもキーボードやテンキーによる入力をする場所は少なくない.その一方で近年,人の手指の動きを取得して文字の入力を行う,ARタイピングインタフェースの研究が行われている.ARタイピングインタフェースは,主に携帯端末の操作領域が狭く,文字の入力が不便であるという問題を解決するという目的で提案されている.また近年では,直接入力装置に触れずに入力ができるため,衛生面で優れているという見方もされてきている.さらに,文字を入力しているユーザ以外からは,空中で手を動かしているようにしか見えないという側面がある.ARタイピングインタフェースは,いまだに指の動きを完全に検出できず,文字の入力を正確に行えないため,実用化には至っていない.公共の場で使われるようになるためには,さらに精度を向上させる必要がある.本研究では,2台のカメラとARグラスを用いて,公共の場に設置することに適したARタイピングインタフェースの仕組みを実装する.これにより,ARタイピングインタフェースの実用可能性を検討する.

記事一覧へ