NISLAB

第143回月例発表会(B4)

2022-12-17

2022年12月17日の第143回月例発表会(B4)において,松下 翔太(B4),谷澤 直大(B4),山崎 慎也(B4),東田 悠希(B4),松村 学(B4),佐々倉 瑛一(B4),坂本 拓馬(B4)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.

移動環境におけるビデオストリーミング品質向上のための MPQUIC スケジューラの検討(松下 翔太)

20221217_SMatsushita

近年,ビデオコンテンツの需要が高まっており,2022年にはインターネットトラフィックのうち82%がビデオストリーミングトラフィックとなることが予測されている.また,ビデオコンテンツの需要増加に伴い,インターネット上のトラフィックが増加したことで,ビデオストリーミングにおいて必要な通信帯域を確保することが困難となり,信頼性の高いビデオストリーミングを安定して配信することが難しくなっている.そこで,LTEや無線LAN(以下,AP)といった複数の通信経路を併用することで通信帯域を確保する技術が注目されている.しかし,通信状況が変化する移動時の通信環境において,柔軟に帯域を確保できないという課題がある.
そこで本研究では,移動環境下のスマートフォンやタブレット(以下,端末)でビデオストリーミングを再生する状況において,安定した通信帯域の供給を可能にするスケジューラを提案することで,通信品質向上の効果を検討する.

ダイナミックマップシステムにおける安全性を考慮した負荷分散方式の検討(谷澤 直大)

20221217_NTanizawa

協調型自動運転社会の実現に向けて2020年代に突入し,一定条件下で自動運転が可能なレベル3の市販車の発売が始まり,特定エリアでAI(人工知能)が全ての運転操作を担うレベル4への移行に向けた研究が盛んに行われている.その実現のためには,車載センサやAIの高度化だけでなく,自車位置を正確に認識し,交通状況に応じた予測運転を行うための情報インフラが必要となる.それを実現するための手段として,高精度3次元(3D)地図にさまざまな交通情報などを付加した概念的なデータの集合体である「ダイナミックマップ」というシステムが存在する.ダイナミックマップを利用して,リアルタイムな道路交通状況を管理し,交通支援サービスを提供するプラットフォームをダイナミックマップシステムと呼ぶ.このシステムを用いることで,合流調停や交差点における運転支援など複数の交通支援サービスを提供することが可能になる.
現在,研究開発が進められているダイナミックマップシステムは,地理的に分散配置したエッジサーバを利用して処理負荷を分散するシステムである.そこで齊藤らは,エッジサーバ自体の拡張性について考慮し,渋滞などで特定のエッジサーバの管理エリアに車両が集中する場合に,管理エリアの一部を計算資源に余裕のあるエッジサーバに移譲するダイナミックマップシステムの負荷分散方式を提案した.しかし,関連研究における懸念点として,本来通信を行うエッジサーバよりも離れた位置に存在するエッジサーバに移譲して通信を行うことで,処理遅延が起こる可能性が高まったり,障害物による影響や他の電波の干渉を受けてしまい通信エラーが発生してしまうことなどが考えられる.そのため,走行調停が多く求められるエリアを移譲した場合に,先に述べた懸念点の影響を受け,重要なサービスの提供に支障をきたす恐れがある.しかし,道路環境において安全運転支援などで要求される車両の走行情報は,それぞれの車両の周辺環境状況によって重要度は異なることが予想される.
そこで本研究では,車両の周辺環境状況を事前に予測して優先度を付与し,負荷分散する際,他のエッジサーバに移譲するエリアをその優先度に応じて制御することで,走行調停が多く求められるエリアに所属する車両の通信の安全性を保つことを目的とする.

CAV のセンサ検知範囲の重複度に応じた送信間隔割り当て手法(山崎 慎也)

20221217 SYamasaki

近年,自動運転技術に関する研究が盛んに行われている.2020年11月に,世界で初めて日本は自動運転レベル3の型式指定を実施し,車線維持機能に限定して,高速道路等において60km/h以下の渋滞時等における作動を実現している.日本政府は2025年を目処に自動運転レベル4の実現に向けて高速道路での60km/h以上の自動運転機能の安全基準等の策定を政府目標としている.また,レーザー光を用いて物体までの距離や形状を計測するLiDARやカメラ等の多数のセンサを搭載した協調型自動運転車両(CAV)の研究も注目されている.CAVは常に周辺環境を検知し,そのデータを基に他車両や静的な高精度3次元データに動的な交通情報を集約したダイナミックマップを管理するクラウドとリアルタイムで通信することで,より安全で効率的な道路交通を実現することが期待されている.
しかしながら,多数のCAVの通信による通信帯域の逼迫が懸念されており,動的に変化する道路環境において通信や処理の遅延は事故に繋がるが懸念されている.したがって,通信頻度や通信するデータ量を抑える必要がある.
本研究では,このようなCAVの通信帯域の逼迫を解決するために,CAVのセンサ検知範囲の重複度に応じて冗長性が高いセンサ情報の送信頻度を下げることで動的な送信間隔割り当て手法を提案し,シミュレーションで評価する.

車両走行状態とドライバ視線の時系列変化を考慮した運転支援情報提示の制御手法(東田 悠希)

20221217 YHigashida

近年,様々な運転支援機能が普及したことによりドライバが取得できる情報が増加している.運転支援機能の中には,ドライバに対して車両のフロントガラスに虚像を投影することで視覚的に様々な支援情報を伝えるHUD(Head Up Display)があり,これを用いて運転支援を行うための機能開発が行われている.しかし,ドライバに対して提示する情報が過多である場合や,ドライバの認知や判断を無視した支援はドライバの運転操作に悪影響を及ぼし,システムの信頼性や運転の安全性を損なう可能性がある.従って,ドライバのディストラクション(意識の脇見)を考慮した取り組みや冗長性の排除が必要となる.そのためHUDを用いて運転支援を行うには,ドライバが必要とする適切な情報を適宜提示するような運転支援情報の制御が必要である.
また,走行中の車両情報であるステアリングのふらつき度合からドライバ個人の運転負担を予測し,提示する情報の制御を行う手法があるが,この手法ではドライバが周囲の環境に対して認知をどの程度行えているかは考慮していない.ドライバは主に視覚から外界の情報を取り入れることにより周囲のものを認知するため,ドライバの視線情報はドライバが何を認知したか推定するための重要な情報である.
本研究では,車両の走行状態とドライバ視線を用いてドライバが周囲の環境を認知しているか推定し,提示する運転支援情報を制御する手法を提案する.

時空間予約マイクロロードプライシングのオークション方式による価格設定手法の提案(松村 学)

20221217 GMatsumura

近年,工事情報や渋滞情報などの動的情報と高精度3次元位置情報(路面情報,車線情報)等の静的情報を組み合わせたデジタル地図であるダイナミックマップの研究が進められている.この技術を用いることで,協調型自動運転車両が走行予定である経路の時間と空間を事前に予約し,他の車両を排除することで,よりスムーズな走行を可能にする時空間グリッドという考え方が確立された.今後ダイナミックマップの活用や,協調型自動運転車両の普及につれて安全運転支援や渋滞緩和などの役割を果たすと期待されている.
また,ロードプライシングという考えのもと,時空間によって分割したグリッドそれぞれに値段を付け,その時空間グリッドを走行するための予約に料金を必要とするマイクロロードプライシングの実現を目指す研究も行われている.このマイクロロードプライシングでは,車両のスムーズな走行が可能となる一方で,事前予約の優先度がない場合や価格設定によっては,車両の予約が集中する問題が生じ,一部車両の旅行時間の増大が問題点となる.
そこで本研究では,マイクロロードプライシングでの時空間グリッド予約において,車両が支払う料金に応じて予約の優先度を決定するオークション方式を導入する.これにより関連研究に対して出発地から目的地までの旅行時間の短縮を目的とする.

協調型自動運転に向けた複数路側センサのフリースペース情報統合(佐々倉 瑛一)

20221217 ESasakura

近年,自動運転車の研究が盛んに行われている.自動運転の制御をする際には周囲の状況を把握する必要があるため,自動運転車では車両にセンサを搭載している.しかし,自車両に搭載されているセンサの認識範囲から得られる情報のみでは,交差点において建物等の死角になっている部分に車両や歩行者がいた場合,その車両や歩行者が自車両の視界に入ってから減速するしかなく,出会い頭の衝突を防ぐために自動運転車が十分な速度を出すことができないことや急減速の原因となっていた.そこで,各車両のセンサ情報や路側機から得られたセンサ情報を無線通信で共有し,自動運転車の安全性と走行効率を引き上げを目指す,協調型自動運転の研究が注目されている.本研究では各車両のLiDARセンサ情報と路側機から得られたLiDARセンサ情報を統合することで,車両が認識できるフリースペースの範囲を拡張するシステムを作成し,その有効性を検証する.

ユーザの意思を考慮したホームネットワークにおけるトラフィック優先度制御システム(坂本 拓馬)

20221217 TSakamoto

近年,IoTデバイスの普及,高画質な動画などの大容量データの増加,テレワークの需要が高まったことによって,ホームネットワークのトラフィック量が増加傾向にあり,通信帯域の逼迫が危惧されている.通信帯域が逼迫した場合,ユーザが必要とするデータを,必要な時に送信できない問題が発生する.また,ホームネットワークには特性の異なるデータが混在し,通信の種類と量が時間帯によって変動する.さらに,ユーザによって必要な通信が変化するため,優先度の設定にユーザの意思が反映される必要がある.ユーザの意思が反映されない場合,ユーザが必要としている通信の優先度が低く設定されるといった問題が発生する.そこで,ホームネットワークの通信に,データ特性に応じて優先度を設定し,通信帯域が逼迫した際に,低優先度のデータを破棄し,高優先度データの帯域を確保することで通信品質を保証する優先度制御が提案されている.しかし,優先度の設定が固定されており,優先度を動的に変更できないため,状況に応じた優先度制御ができない.
また,通信の優先度を固定ではなく,動的に設定可能にすることで,状況に応じた優先度変更を可能とする優先度制御手法が提案されている.しかし,データ特性を考慮して各通信に番号を割り振ることで優先度を設定しており,ユーザは優先度を設定する際に,各通信の番号を変更する必要がある.そのため,ホームネットワーク内の通信の種類が増加するとユーザによる優先度の設定が困難になる.
本研究では,ユーザの意思を考慮した優先度制御システムを提案する.優先度設定の初期状態はデータ特性を考慮して定義する.ユーザは優先度の変更を要求し,システムはユーザに優先したいトラフィックの選択を促す.選択されたトラフィックを高優先度に設定することでユーザの負担を減らしつつ,ユーザの意思を反映した優先度制御を行う.

記事一覧へ