2022年10月8日の第141回月例発表会(M1)において,国本 典晟(M1),土居 大輝(M1),西川 瑳亮(M1),平光 樹(M1),鈴木 彩門(M1),佐々木 雄大(M1),宮脇 弘充(M1)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.
SDNを利用したQoS予測・予約によるV2X通信の信頼性向上(国本 典晟)
協調型自動運転の実現に向けて,車両とあらゆるものを接続するV2X(Vehicle to Everything)通信の研究が積極的に行われている.安全かつ効率的な走行のため,車両は基地局を介してインターネット上のクラウドサーバや基地局近くなどの地理的な分散配置が考えられているエッジサーバと通信を行い,必要な情報を得る.しかし,今後交通サービスを提供するアプリケーションの増加や自動運転車両の普及が進む中で,ある基地局を介してエッジサーバと通信する車両が,そこで利用可能な通信帯域で収容可能な車両台数以上に集中した場合に,通信のQoS(Quality of Service)を保証することができない事態が発生することが懸念されている.事前にQoSが保証されないことを予 測できなかった場合,協調型自動運転に必要な情報を受け取ることができないため,安全性の低下や旅行時間の増加といった問題が発生する.また,他の車両よりも優先的に情報を受け取る必要がある緊急車両などのQoSを保証できない問題も想定される.
本研究では,ソフトウェアを介してネットワークを一元管理するSDN(Software Defined Networking)を利用することで,車両の移動を想定することでQoSを予測することを提案する.QoSが保証できない場合には,QoS予測に基づき基地局のネットワークを制御する.また,特定車両に対してQoSの予約を行うことを提案する.
入力予測と分散処理のMCGへの適用によるネットワーク遅延低減手法(土居 大輝)
現在,ゲーム産業ではクラウドゲームが注目されている.その中でも特にMCG(Multiplayer CloudGame)が人気であり,約56%のプレイヤーが他の人と一緒にプレイすることを好んでいる.クラウドゲームではクライアント側の処理が必要最低限に抑えられており,ゲーム内の演算処理やレンダリングは全てサーバで行われる.これによって,クライアントは端末の性能を気にすることなくプレイ可能で,サーバの強力なGPUを用いた高画質なゲーム画面でプレイすることも可能になる.また,開発者側にもいくつか利点がある.一方で,クラウドゲームはネットワークを経由して処理を行うため,サーバとユーザ間でデータの往復にかかる時間RTT(Round-Trip Time)の影響を受ける.特にMCGの場合では,プレイヤー間の公平性に関わって来るプレイヤー間遅延も問題となる.本研究では,クラウドゲームにおけるネットワーク遅延を改善するために用いられる入力予測に着目する.入力予測を行う際に,一つの状態を予測するのではなく複数の状態を予測することで,予測が大きく外れた場合でも,予測をやり直さずに対処可能な手法を提案する.
CRLのリーダ車両への配布による仮名検証手法(西川 瑳亮)
近年,V2X(Vehicleto Everything)通信に関する研究が盛んに行われている.このV2X通信は車両の事故防止や渋滞緩和など、交通の安全性や効率を向上させることが期待されている.一方で,車両の位置,速度,方向などを,自車両のIDと紐つけて近隣の車両にメッセージでやりとりするため,追跡が容易というセキュリティやプライバシ面の問題がある。その解決策の一つとして,仮名と呼ばれる一定間隔で何回も変更される車両IDを与え,それを用いて周囲の車両と情報をやり取りすることで,追跡を困難にする手法が検討されている.この手法では,仮名認証局が,不正な振る舞いをした車両や,機器のトラブル等によって正常な動作が期待できなくなった車両の仮名を失効させる.その失効させた車両のIDや全ての仮名を他車両に周知させるためにCRL(Certificate Revocation List)と呼ばれる失効した仮名のリストを配布する必要がある。しかし,この仮名変更方式では,失効した車両が増加するとCRLのデータサイズが大きくなり,CRL配布によって通信帯域が逼迫され、他のアプリケーションの通信に影響を与えてしまう課題がある.そのため,少ない通信トラフィック量でCRLを配布し,失効している仮名を把握する手法を検討する必要がある.
走行環境を考慮したフリースペース危険度の段階的可視化(平光 樹)
近年,ITS(高度交通システム)による安全運転支援の研究が行われている.ITSにより,路側インフラ設備や車と通信を行うことで運転手に運転の危険性を伝え,事故の防止につなげる取り組みが広まりつつある.しかし,未だに交差点など見通しの悪い道路状況においては減少傾向にはあるものの事故は発生している.そのため,ITSにより運転手により効果的に危険度を伝え,安全な走行を促すシステムが必要である.本研究では,車載センサによって車両前方のフリースペースの危険度を段階的に管理することで性格に危険度を定め,HUD(Head Up Display),車々間通信によって,死角のある交差点を右折する際の危険度を死角車両のフリースペースの状態から判断し,運転手にAR表示することで安全に右折することを可能にする手法を提案する.なお,死角に存在し自車両からでは視認することのできない車両を死角車両とする.
仮想キーボードの使用感向上のためのキーポイント合成による入力判定手法(鈴木 彩門)
現在,人間の手や指の動きを認識して文字の入力を行う仮想キーボードインタフェースの研究が進められている.仮想キーボードは,近年急速に発展を続けている拡張現実(AR)や仮想現実(VR)において,デバイス操作を直感的に行える,利便性を高められるなどの利点から需要が高まっている.しかし,現在使用されている仮想キーボードの多くは,指の動きを読み取るために,センシングデバイスなど,特殊な機器を別途用意する必要があり,気軽に利用できるとは言い難い.そこで,端末のカメラ映像のみで,文字を入力するハンドジェスチャを認識する技術も提案されている.このようなハンドジェスチャ認識においては,ほとんどの場合が,人差し指のみで入力する場合を想定している.これは,文字を入力しているかを判断する対象が1本の指だけに限られるので,認識の精度が向上できるからである.しかし,現実世界にある物理的なキーボードを使用する際,人差し指のみを使って入力することは少ない.そのため,通常のキーボードと変わらない使用感で入力が可能なインタフェースが求められる.本研究では,2台のカメラとヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いて,物理的なキーボードと同様に,手の全ての指を使って入力することが可能な仮想キーボードインタフェースの仕組みを提案する.
ネットワーク環境に応じた動的スケジューリング方式によるWeb ページ読込み時間削減手法(佐々木 雄大)
近年,スマートフォンなどの普及により,インターネットの利用率は増加している.一方で,通信品質の悪化などによるWebページ読込み時間の増加は,ユーザ満足度に影響し,ユーザは読込み速度の遅いWebページから離れる傾向にある.こうした状況を踏まえ,Webページ読込み時間を削減するために開発され,現在IETFによって標準化が進められているのがQUICである.HTTP/3は,トランスポート層にQUICを採用することで,従来のHTTP/2よりも高速な通信を実現する.その要因の一つとして,QUICではUDP上にストリームの多重化を再実装しており,各ストリームでのパケットロスが他のストリームに影響しない仕様となっているため,トランスポート層でのHoL(Head-of Line)ブロッキングを解消している.また,各ストリームはHTTPリソースの優先順位付けによって管理しており,HTTP/3では従来のHTTP/2よりも単純かつ柔軟性の高いEPS(Extensible Prioritization Scheme)と呼ばれる優先順位付け方式が再設計された.しかし,HTTP/3の最適な優先順位付け方式は確立されておらず,例えば,高い遅延かつパケットロス率となるネットワークではラウンドロビン方式のパフォーマンスが高くなることがわかっている.そこで本研究では,HTTP/3での通信において,ネットワーク環境に応じて動的にスケジューリング方式を選択することで,ページ読込み時間を削減する手法を提案する.
自動運転における緊急回避情報を用いた安全性向上手法(宮脇 弘充)
近年,自動運転技術に関する研究が活発に行われており,今後普及することが期待されている.また,V2X(Vehicleto-everything)通信を利用して周辺車両や路側機と通信を行うことで,車載センサの死角や周辺車両の情報を得ることができる車両もある.そういった車載センサの死角や周辺車両の情報を得ることができるという利点を活かし,さまざまな運転支援サービスを提供する動きもある.見通しの悪い交差点において,V2V(Vehicle-to-vehicle)通信で自車両のセンサ検知範囲外を走行している接近車両の情報を早期に得ることで衝突防止支援を行うようなサービスや,V2I(Vehicle-to-infrastructure)通信で右左折時の衝突防止支援や歩行者見落とし警告を行うようなサービスが検討されている.V2V通信と自動運転技術を併用することにより,現在に比べ安全で効率的な交通になることが期待されている.しかしながら,自動運転が普及したとしても,突発的な事故や落下物等の障害物は発生する可能性があり,発生した場合には回避する必要がある.高速道路においては,障害物を検知した車両が障害物情報を周囲の車両に発信する手法が検討されているが,後続車両からは検知した車両が障害物を回避できたかどうか不明なため,後続車両に回避を行う車両の動作を通知する仕組みが必要である.そこで,本研究では全ての車両が通信機能を備えた自動運転車である高速道路において,事故や障害物等に起因する緊急回避動作を後続の車両に通知する手法を提案し,シミュレーションによって効率と安全性を検討する.