2023年12月16日の第153回月例発表会において,髙田 陽輝(B4),田牧 浩月(B4),田中 誠也(B4),梅田 寛斗(B4),辰己 弘征(B4),岩井 駿人(B4),東 葵(B4)の7名が以下のタイトルで発表を行いました.
車車間通信を利用した協調型自動運転車両の合流調停手法の検討(髙田 陽輝)
近年,協調型自動運転車両に関する研究が盛んに行われている.協調型自動運転車両とは,車両の車載センサから取得したセンサ情報を用いて自動運転制御を行う自律型自動運転に加えて,道路に設置された対応機器との間のやり取りであるV2I(Vehicle-to-Infrastructure)通信や,車両同士のやり取りであるV2V(Vehicle-to-Vehicle)通信によって取得した情報を活用することで,道路交通に関する状況の予測や周辺車両との協調行動を可能とする車両のことである.
これらの通信は将来的な協調型自動運転車両の普及に伴って,合流調停での活用が期待されている.合流調停手法としてクラウドを併用した手法が多く考えられているが,クラウド障害によって合流の際に協調型自動運転車両が他の協調型自動運転車両と通信できない場合を考えると,V2V通信のみを利用した代替手法が必要である.そこで,本研究では走行する全車両が協調型自動運転車両である一車線高速道路におけるV2V通信のみを用いた合流調停手法を提案し,評価を行う.
SDN を用いた V2V・V2N2V 通信の併用によるコネクテッドカーの通信品質向上(田牧 浩月)
近年,ITS(高度道路交通システム)において,コネクテッドカーのための通信ネットワークに関する研究が活発に行われている.車車間直接通信(V2V)と基地局経由の車車間通信(V2N2V)は,車両同士で情報を交換するための主要な通信技術となっている.特に車両走行中に遭遇する突発的な危険事象を他車両に通知する際には低遅延性が求められる.
V2V通信は,車両間が近距離な状況において,直接伝送による低遅延な通信が可能である.しかし,車両間が遠距離な状況では,中間車両を介したマルチホップ通信が行われる.そのため,車両間の距離が遠くなるにつれて中継する車両台数が増加するため,遅延が大きくなる問題がある.一方で,V2N2V通信では広域なエリアで通信を行うことができる.しかし,車車間が近距離な場合においても基地局を介した通信を行うため,V2V通信と比較して遅延が大きくなる問題がある.
前述の問題点を踏まえて,本研究では,Software-Defined Networking(SDN)を利用し,車車間通信を行う際にV2V通信とV2N2V通信を通信遅延品質に応じて動的に変更することで通信品質の向上を図る.
ホームネットワークにおける IoT 機器管理を目的とした コンテナオーケストレーションシステム導入の検討(田中 誠也)
近年,IoT(Internet of Things)機器の普及が進んでいる.特に一般家庭においても,家電のIoT化等により,家庭内に構築したLAN環境であるホームネットワーク内のIoT機器が増加している.それと同時に,IoT機器のセキュリティも問題となっている.IoT機器のセキュリティが問題になりやすい理由として,メーカにより十分な監視手段が提供されない場合が多い事,ソフトウェアのアップデートが行いにくい事により既知の脆弱性の修正が早急に行われない事が挙げられる.IoT機器の管理やアップデートの簡易化を目的として,各社が自社製品の管理用のアプリケーションを公開している.しかし,それらのアプリケーションは自社製品専用であるため,機器が増えるほど対応するアプリケーションも増えて利用者による管理が難しくなる.また,IoT機器やその管理のためのソフトウェアは全てプロプライエタリなものであり,ベンダーロックインも懸念される.そこで,本研究では,家庭内のIoT機器の管理やソフトウェアアップデートが困難であり,ベンダーロックインも懸念されるという問題点に対して,ホームネットワークにおいて仮想環境のクラスタ管理ソフトウェアであるコンテナオーケストレーションシステムを導入し,共通の管理用通信プロトコルを制定することでIoT機器を一元管理を可能とする手法を提案する.
時空間グリッドにおける車線変更を考慮した道路合流調停手法(梅田 寛斗)
自動運転技術に関する研究において,通信を用いて車載センサ情報を他車両と共有して走行する協調型自動運転が検討されている.協調型自動運転における走行調停手法として,ダイナミックマップを利用した時空間グリッド予約が提案されている.道路上の空間と時間をグリッドに分割し,各車両がどの時間にどのグリッドを走行するかをダイナミックマップ上で管理する.高速道路における走行調停においてこの手法を適用した先行研究では,合流時の車両の加減速が緩やかになり,安全性や走行効率が向上することを示した.しかし,この研究では高速道路の本線での車線変更について考慮しておらず,広域での走行調停ができるという時空間グリッド予約のメリットを活かしきれていない.
そこで本研究では,より効率的で安全な高速道路の合流調停を目的とし,高速道路の本線における車線変更を考慮した走行調停の手法を提案する.
Bluetooth5 の AOA 方式を用いた複数歩行者に対する位置測位の評価(辰己 弘征)
近年,LiDAR(Light Detection And Ranging)による位置推定技術が注目されている.LiDARはレーザー光を使用して物体までの距離や位置を計測し,物体の位置や形状を点群データとして取得するセンシング技術である.これを車両に搭載し,周囲の点群データを解析することで,それが歩行者であるのかそうでないのかを判別することが可能である.しかし,一つの視点による歩行者検知では死角領域が発生するため,全ての歩行者をもれなく検知するのは不可能である.この問題に対して,交差点内の複数路側機が取得した歩行者の点群データを統合することで,死角領域を補う試みが行われた.しかし,歩行者が重なっている場合や,近くに複数人存在する場合などは,点群が一人分しか表示されないと言う問題があるため全ての歩行者の人数を正確に把握することができないと言う問題があった.そこで本研究では,Bluetooth5を搭載したビーコンタグを歩行者に携帯させ,その周りに受信機を設置することで,歩行者同士のオクルージョンがあった場合でも歩行者の数と位置を正確に判定することを目的とする.オクルージョンとは電波が遮断される原因になる,受信機と発信機の間の障害物のことを指す.また,受信機の配置位置と配置個数によって精度がどのように変化するかについて検討する.
ぷよぷよテトリスにおけるゲーム AI アルゴリズムの比較(岩井 駿人)
近年の人工知能(AI)の進化によって,様々なゲームにおいて人間のコンピュータゲームプレイヤーよりも好成績を出すゲームAIが開発され,その一例として,ZetrisやColdClearなどのテトリスのゲームAIが挙げられる.これらのテトリスのゲームAIはテトリスのプロを圧倒的に凌駕する強さを実現しており,ぷよぷよテトリスというゲームを起点にその実力が注目されるようになった.ぷよぷよテトリスは,ぷよぷよとテトリスの二つのパズルゲームを組み合わせたゲームで,プレイヤーはそれぞれ得意なゲームを選択して対戦することができる.
ぷよぷよに対してパズルゲームで有用性が示されているアルゴリズムを適用した関連研究は存在する.しかし,それらのアルゴリズム同士の比較やテトリス相手に対する有用性を示した研究はない.そこで本研究では,ゲームAIで扱われる複数のアルゴリズムをテトリス相手のぷよぷよに適用し,アルゴリズムの有用性を比較することを目的とする.
ぷよぷよのゲームAIの従来の目的は,連鎖構築にある.ぷよぷよ同士の対戦では,大きな連鎖を構築することが重要となってくるためである.しかし,テトリスとぷよぷよが対戦を行う際にぷよぷよ側は,テトリスが送るおじゃまを受けながら自フィールドで3~6連鎖を構築し,徐々にテトリスをゲームオーバーに追い込む,といった戦法が一般的で,その観点からも従来のぷよぷよのゲームAIとは大きく異なることがわかる.
移動環境下における利用者のコンテンツを考慮した MPQUIC パケットスケジューラ(東 葵)
近年,スマートフォンなどのモバイル端末の普及により,公共交通機関や自家用車での移動中にビデオストリーミングなどのコンテンツを利用する機会が増えている.これらのコンテンツを快適に利用するためには,パケットロスや通信の遅延などが発生しないように,通信帯域を確保することが必要となる.そこで,LTEなどのセルラー通信と無線LANといった複数の通信を同時に使用することが可能なマルチパストランスポートプロトコルという技術が用いられている.マルチパストランスポートプロトコルは,パケットスケジューラによってパケットがどの通信経路へ送信されるか決定される.しかし,既存のパケットスケジューラはモバイル端末の移動による通信経路の喪失を考慮していない.そのため,移動による通信経路の損失によってネットワーク上を伝送中のパケットであるInFlightパケットがモバイル端末に到達できず,パケットロスが発生する.既存研究には移動環境を考慮したパケットスケジューラも存在するが,利用者のコンテンツは考慮されていない.
そこで本研究では,移動経路,利用者のコンテンツに基づいて通信経路を選択することで,移動環境,利用者のコンテンツに応じた通信経路選択を可能とし,InFlightパケットによるパケットロスを削減する手法を提案する.